九本の鍼に託された知恵|黄帝内経『霊枢』九鍼十二原編を読み解く

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茨木_鍼灸東洋医学
古代九鍼「針灸大成」より

「鍼灸にはなぜいろいろな種類の鍼があるの?」

「細い鍼だけが鍼治療ではないの?」

そんな疑問を持ったことはありませんか?


中国最古の医学書のひとつ

『黄帝内経(こうていだいけい)』の中でも、

鍼灸を専門的に論じた『霊枢(れいすう)』には、

「九鍼十二原編(きゅうしんじゅうにげんへん)」 という

重要な章があります。


これは、鍼灸施術の道具=九種の鍼と、

その背景となる思想を語る最古の記録のひとつです。


今回はこの章を通じて、

古代人がどのように鍼治療を考えていたのかを紐解いていきます。


私たち鍼灸師が日常的に使っている「鍼」。

その原型は、どんな形で、

どのような目的で使われていたのか?


なぜ九本(種類)も必要だったのか?


現代の鍼灸治療では、

髪の毛ほどの細さの毫鍼(ごうしん)しか

見かけないことが多いかもしれません。


ですが、古代中国の医家たちは、

「用途に応じて鍼を使い分ける」という

明確な考えを持っていました。


それは、まるで職人さんが

道具を使い分けるような感覚に近いかもしれません。


今、形を変えてもなお

その意志は受け継がれていると、私は思います。


実際に私も臨床の場では数種類の鍼を使い分けます。


当院に通ってくださっている患者さんは

「お!」と感じることがあるかもしれません。


臨床の場に立つ鍼灸師さんも今一度ぜひ、

初心にかえって、この記事を読んでいただけると幸いです。


九鍼とは?

『霊枢』九鍼十二原編においては、

以下の九つの鍼具が紹介されています。


以前の記事でもいくつかは軽く触れましたが、

今回は九鍼全てを解説していきます。


ーーー画像は『鍼灸重宝記』より引用


(原文は『霊枢』「九鍼十二原」より抜粋)


  • 鑱鍼(ざんしん):「鑱鍼者.頭大末鋭.去寫陽氣.」
    余剰な陽気(熱)除くために使用された。
    形状から、現代の”かっさ”や”イチョウ鍼”などの原型だったのではないでしょうか。


  • 圓鍼(えんしん):「員鍼者.鍼如卵形.揩摩分間.不得傷肌肉.以寫分氣.」
    皮膚を按じたり摩擦することで気を流すように使用された思われる。文章から低刺激であったことも窺い知れます。


  •  鍉鍼(ていしん):「鍉鍼者.鋒如黍粟之鋭.主按脉.勿陷以致其氣.」
    これも按じるように使用され、低刺激であったことがわかります。(現在の接触鍼にかなり近いかと)。


  • 鋒鍼(ほうしん):「鋒鍼者.刃三隅.以發痼疾.」
    膿や悪血を出す切開用途。
    現在の刺絡に近い用途で使われたと思われる。


  • 鈹鍼(ひしん):「鈹鍼者.末如劔鋒.以取大膿.」
    表面を押し開く用途(刀状になっている)
    当時の外科的処置の際にも使用されたと思われる。


  • 圓利鍼(えんりしん):「員利鍼者.大如氂.且員且鋭.中身微大.以取暴氣.」
    できものなど腫脹部や痺れなどに用いられた。


  • 毫鍼(ごうしん):「毫鍼者.尖如蚊虻喙.靜以徐往.微以久留之.而養.以取痛痺.」
    現代において一般的な鍼。
    寒熱や痛みを取り除くのに長けており、文章からも置鍼が大前提であることもわかる。


  • 長鍼(ちょうしん):「長鍼者.鋒利身薄.可以取遠痺.」
    深部の痛みを取る。筋肉深層へ対応。
    現代では梨状筋の刺鍼や大腰筋の刺鍼などにも用いられる。


  • 大鍼(だいしん):「大鍼者.尖如挺.其鋒微員.以寫機關之水也.九鍼畢矣.」
    水腫や膿瘍などの排出に用いた太い鍼。


これらは単なる道具紹介ではありません。

鍼ごとに「病に対する適応・目的」が

異なることを明確に示しており、

弁証施術の基本がすでに形作られていたことを意味します。


その術法を読み解くのもまた、

面白みがあるのではないかと思います。


十二原とは?

この章の後半では

「十二原」という概念も触れられますが、

これは十二経脈に対応する原穴

すなわち身体の

「気」の出入口となる重要なツボを指します。


ここでは簡潔に、

十二原穴の思想が「気の調整」において

いかに重視されていたかを強調しています。


この「九鍼十二原編」は、単に古典の一節ではなく、

現代鍼灸にも通じる重要な指針となります。


診断のために鍼を選ぶのではなく、

証に応じて道具を選ぶ思想が

この章には詰まっているのです。


「鍼有九、各不同形。 所以異者、各不同用、各有所宜也。」


意訳:

「鍼には九種類あり、それぞれに形が異なる。その違いがあるのは、それぞれに異なる用途と適応があるからである」


治療で用いられる鍼が、

単なる刺すだけの道具ではなく、

古代からの知恵の結晶であることを

ぜひ知ってほしいと思います。


『霊枢』九鍼十二原編

――それは、私たち鍼灸師がなぜ鍼を使い、

どう使うのか という根本の問いに、

2,000年以上前から答えようとしてくれている章なのです。


※トップ画は『針灸大成』より引用


《当院で使用する鍼》

毫鍼(ごうしん)
現在では滅菌済みディスポーザブル(単回使用)の
ステンレス製の鍼は主流です。


古代鍼®︎(こだいしん)

これこそ古代九鍼の生き残りとも

いえるのではないでしょうか。

当院では軽く触れたり、あるいは翳(かざ)したりと

鍉鍼に近い使い方をします。

刺入しないために鍼が苦手な方や

小児、乳児にまで対応が可能です。


打鍼(だしん)

これは木槌で先の丸くなった鍉鍼のようなものを

コンコン…と叩くことで

お腹に軽微な刺激を与える使い方をします。

これも刺入しないために小児から毫鍼が苦手な方、

反応に敏感な方にまで対応することが可能です。


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鍼灸 縁庵

住所:大阪府茨木市永代町6-19 近藤ビル402

電話番号:090-3890-4915

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