東洋医学を“別の角度”からの学ぶ
先日、ご縁があって京都大学人文科学研究所(通称:人文研)へ、勉強しに行ってきました。
結論から言うと――
医学ではなく、文学や歴史の側から東洋医学を眺めるという、いつもと違った視点を得ることができて、とても刺激的な一日でした。
自分の備忘録も兼ねて、振り返ってみたいと思います。
【第1講:清華簡『五紀』『行称』『病方』からみる身体観・病気観】
最初の講義は、「清華簡(せいかかん)『五紀』『行称』『病方』から考える古代中国の身体観・病気観」 という題材で、六車楓先生が論文として発表予定の内容をご講義くださいました。
(※「清華簡」は、中国の清華大学に蔵されている戦国竹簡のことだそうです)
この講義では、その戦国竹簡を釈読・検討することで、先秦期における身体観・病気観の一端を明らかにしていく内容でした。
まさに冒頭で書いたように、
医学思想だけにとどまらず
- 医学関連文献以外の資料も広く用いる
- 中国思想全体のなかに当時の身体観・病気観を位置づけ直す
というアプローチで、
とてもワクワクしながら聞いていました。
なかでも、
- 天文学(天体観測)と人体との関係性に対する考え方
- 「鬼」の病因論と、「気」の病因論の位置づけや違い
といったテーマは、
知識として知ってはいたけれど、
「そんなもんだ」と流してきた部分でもあり、
改めて腰を据えて考え直すきっかけをいただいた感覚でした。
【第2講:高句麗古墳壁画から見る神仙思想と死生観】
二つ目の講義は、
「韓国国立中央博物館所蔵 高句麗古墳壁画調査報告―龕神塚(がんしんづか)・双楹塚(そうえいづか)―」
という題材で、重信あゆみ先生がご発表くださいました。
4世紀末〜5世紀の高句麗における壁画古墳は、
後漢〜西晋期の中国文化から大きな影響を受けていたと考えられているそうで、そこから
- 神仙思想
- 死生観の変遷
- 生活文化の伝播
などを検討する内容でした。
これは、いわゆる「医学そのもの」に直結する話ではありませんが、
東洋医学の根っこに流れている思想や哲学を再確認する
という意味では、非常に示唆に富んだ講義でした。
「あぁ、こういう“見方”や“学び方”もあるんだな」と、
これまで自分の中になかった発想をいただいた感覚です。
【第3講:中医学の二極化と再評価の系譜】
三つ目の講義は、王財源先生による
「中医学の二極化と再評価の系譜 ―民国期動乱から現代政策・国際展開までの歴史的考察―」でした。
ここでは、
- 伝統的な理論と臨床を重んじる「伝統中医学」
- 標準化・科学化を志向する「現代中医学」
という二つの潮流が、
緊張関係を保ちながらも、互いに補完し合い、併走してきた歴史的経緯が語られました。
中国では一時期、伝統医学が 「怪しいものだ!」 と激しく批判され、ほとんど撤廃されかけた時期もあったそうです。
そうした苦難を、先人の先生方がどう乗り越え、現在まで継承してきたのか――。
日本でも、伝統医療に対する評価の揺れや誤解はありますが、似たようなことが中国でも起こっていたという事実を知り、あらためて歴史の重みを感じました。
また、その過程で
日本に渡った中医学の先生方が、
逆輸入のような形で日本から書籍を持ち帰り、
再び発展させていった
といった話も紹介され、
学問・臨床の往復運動のようなものも垣間見ることができました。
【AIと中医学、そして教育現場のこと】
さらに印象的だったのは、現代中医学とAI技術の話です。
舌や脈の情報をAIが解析し、病態を推定する。
その結果にもとづいて方剤(処方)を選択する病院も出てきている。
という現状が紹介されました。
「気一元の世界」を信じて鍼を振るっている身としては、
正直、少し寂しさのような感情もありましたが…
- 中国には、日本とは比べ物にならない規模の臨床データが蓄積されている
- それをAIで解析した結果であれば、ある一定の効果や再現性は期待できる
という話を聞き、一面では納得できる部分もありました。
また、個人的に非常に興味をひかれたのが、それぞれの脈状を再現し、学ぶことができる「脈診マシン(練習器)」の存在 です。
脈診のような感覚的な技術を、
“文章だけ”で学ぶことには限界があると日々感じているので、
こうした教育ツールは、日本の鍼灸教育の現場でも導入されればとても有効なのではないか、と強く思いました。
いつか、実際に中国の臨床現場を見学しに行きたいという気持ちが、さらに高まりました。
【おわりに:別の角度から東洋医学を見直す】
あらためてまとめると――
冒頭にも書いたように、今回はいつもとは違う視点から、
- 東洋医学の思想
- 歴史的な背景
- 現代における位置づけや課題
を捉え直すことができ、とても勉強になった一日でした。
医学の歴史だけでなく、中国史や文学の世界にも興味が湧いてしまい、
「これはもう、人生全部かけても勉強しきれへんな…」
と、良い意味で途方もない気持ちにもなりました。笑
それでも、勉強に行き詰まったときに、
”別の視点から考えるための“入り口”をいくつか持てたこと は、
自分にとって大きな収穫だったと思います。
今回学んだことを、これからじっくり自分の中で咀嚼しながら、
- 目の前の患者さんの臨床
- 後進の指導
- 自分自身の学びのスタイル
に、少しずつ活かしていけるよう、また精進していきたいと思います。
鍼灸 縁庵
住所:大阪府茨木市永代町6-19 近藤ビル402
電話番号:090-3890-4915
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