なぜ”くしゃみ”と呼ばれるのか?「嚔(くさめ)」からの変化
前回はくしゃみ(噴嚏)のメカニズムについて
記事を書かせていただきました。
→くしゃみ(噴嚏)のメカニズム《現代医学・東洋医学の両視点で》
そして記事をまとめる中で
「そういや昔は”くさめ”と呼ばれていたはずなのに、
いつから”くしゃみ”になったのだろう?」と
ふと疑問に思いましたので調べてみました。
なかなか面白かったので
今回はその歴史的変化について綴っていきたいと思います。
「くさめ」が「くしゃみ」と言われるようになった歴史
「くしゃみ」という言葉の由来は、
古くは「嚔(くさめ)」と呼ばれていたことにあります。
「くさめ」という言葉は、もともと呪文として用いられていました。
「くさめ(糞食め=くそはめ:クソくらえの意)」と唱えることで、
悪霊や邪気が退散すると信じられていたのです。
どういうことか?
以下、歴史を少し辿ってみたいと思います。
歴史的変遷
- 奈良時代~平安時代
・くしゃみをすると魂が体から抜け出ると考えられ、
呪文として「くさめ」と唱える風習がありました。
・『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(10世紀)
では、くしゃみを「気噴(きふん)」と表現しています。 - 室町時代
・「くさめ」という発音が変化し、「くしゃみ」という形が生まれる。
•『節用集(せつようしゅう)』(15世紀の辞書)には
「くさめ」「くしゃみ」両方が記録されています。 - 江戸時代
•「くしゃみ」が一般的な表現となります。
• 俳諧や川柳にも「くしゃみ」が登場し、
日常語として定着しました。
このように、呪術的な言葉「くさめ」が転訛(てんか)して
「くしゃみ」となり、現代に至ります。
少し書物の名前が出たのでこれの解説もします。
『倭名類聚抄(わみょうるいしゅうしょう/わみょうるいじゅしょう)』
平安時代中期(931年~938年頃)に編纂された日本最古の辞書です。
言語学者である源順(みなもとのしたごう) によって編纂され、
漢語(中国語)の意味を日本語(和名)で解説した書物…
つまり漢和辞典です。
約4,000語の和名を記録していたようです。
この『倭名類聚抄』では、くしゃみについて
「気噴(きふん)」 という語が使われていました。
・「気」= 体内のエネルギー
・「噴」= 吹き出す
つまり、体内の気が急に吹き出す現象として
くしゃみが理解されていたことがわかります。
前回、噴嚔(ふんてい)について解説をしましたが
今回は動作のみならず、
”気というエネルギーが出ていく”と解釈されていることから
魂が体から抜ける、
と言い伝えられている名残があることがわかりますね!
また、『倭名類聚抄』では、
「くさめ」 という表現は出てこないため、
当時の正式な語彙としては
「気噴」が使われていた可能性が高いといえます。
しかし、「くさめ」という言葉は
庶民の間で呪文のように使われており、
それが後に「くしゃみ」へと
変化していったのではないかと考えられます。
因みに…
『倭名類聚抄』は単なる辞書ではなく、
東洋医学的な概念も含んでいました。
例えば、
・病名や薬草の和名も収録され、医療に関する知識の基礎となった。
•「気」に関する記述が多く、
くしゃみ(気噴)も 「気の動き」として理解されていた。
• その後の日本の医療・薬学に影響を与えた。
というようなことがあります。
『節用集』
室町時代(15世紀頃)に作られた日本最古の国語辞書の一つ。
主に漢字の読み書きを学ぶために作られた、
現在でいう「国語辞典」としての役割も果たしていました。
・言葉を植物、動物、天文、地理…
などカテゴリに分けて掲載、整理されていた。
・漢字+その読み(訓読み・音読み)を記載していた。
・日本語の語彙とともに、 漢字の使い方を学べるようになっていた。
・江戸時代にかけて何度も改訂され、多くの人々に使われた。
(江戸時代には寺子屋の教科書としても利用されたようです)
「節用(せつよう)」とは
「必要なものを選んで使う」 という意味があります。
つまり、『節用集』は
「日常生活に必要な漢字・言葉を集めた本」 ということです。
なので一般的な教養をつけるためにも
教科書として用いられるようになったのですね。
本題に戻りますが、
この書物に「くさめ」と「くしゃみ」のどちらも記載され、
後の江戸時代から「くしゃみ」の方が定着していったわけですね。
金元四大家の1人、劉完素が著した『素問玄機原病式』には
「嚔は鼻中の痒きによりて気噴し声を作すなり」とあります。
昔の中国でも”気噴”という表現が使われていたということは
日本へ輸入されたであろう言葉だということが考えられますね。
中医学は今では”噴嚏”になり、
日本では”くしゃみ” になりました。
魂が抜き取られる、という発想が
いかにも日本人らしいというか…
(カメラが輸入されたときもそのような考えがあったようですね。笑)
これは妖怪文化のある、日本独自の発想なのかなぁ?
など思ったりもしました。
今回はただの雑学的な話になりましたが…
最後まで読まれた方は
蘊蓄(うんちく)が1つ増えたのではないでしょうか?
これが役に立つかは…
わかりません( ̄▽ ̄)
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