なぜ”くしゃみ”と呼ばれるのか?「嚔(くさめ)」からの変化

query_builder 2025/03/28
茨木_鍼灸東洋医学
くさめ 嚔 くしゃみ ブログ

前回はくしゃみ(噴嚏)のメカニズムについて
記事を書かせていただきました。

くしゃみ(噴嚏)のメカニズム《現代医学・東洋医学の両視点で》


そして記事をまとめる中で

「そういや昔は”くさめ”と呼ばれていたはずなのに、
いつから”くしゃみ”になったのだろう?」と
ふと疑問に思いましたので調べてみました。


なかなか面白かったので
今回はその歴史的変化について綴っていきたいと思います。



「くさめ」が「くしゃみ」と言われるようになった歴史


「くしゃみ」という言葉の由来は、

古くは「嚔(くさめ)」と呼ばれていたことにあります。

「くさめ」という言葉は、もともと呪文として用いられていました。
「くさめ(糞食め=くそはめ:クソくらえの意)」と唱えることで、

悪霊や邪気が退散すると信じられていたのです。


どういうことか?

以下、歴史を少し辿ってみたいと思います。


 歴史的変遷

  • 奈良時代~平安時代
    ・くしゃみをすると魂が体から抜け出ると考えられ、
    呪文として「くさめ」と唱える風習がありました。
    ・『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(10世紀)
    では、くしゃみを「気噴(きふん)」と表現しています。
  • 室町時代
    ・「くさめ」という発音が変化し、「くしゃみ」という形が生まれる。
    •『節用集(せつようしゅう)』(15世紀の辞書)には
    「くさめ」「くしゃみ」両方が記録されています。
  • 江戸時代
    •「くしゃみ」が一般的な表現となります。
    • 俳諧や川柳にも「くしゃみ」が登場し、
    日常語として定着しました。


このように、呪術的な言葉「くさめ」が転訛(てんか)して

「くしゃみ」となり、現代に至ります。


少し書物の名前が出たのでこれの解説もします。


『倭名類聚抄(わみょうるいしゅうしょう/わみょうるいじゅしょう)』
平安時代中期(931年~938年頃)に編纂された日本最古の辞書です。

言語学者である源順(みなもとのしたごう) によって編纂され、
漢語(中国語)の意味を日本語(和名)で解説した書物…

つまり漢和辞典です。

約4,000語の和名を記録していたようです。


この『倭名類聚抄』では、くしゃみについて

「気噴(きふん)」 という語が使われていました。

・「気」= 体内のエネルギー

・「噴」= 吹き出す

つまり、体内の気が急に吹き出す現象として

くしゃみが理解されていたことがわかります。


前回、噴嚔(ふんてい)について解説をしましたが

今回は動作のみならず、

”気というエネルギーが出ていく”と解釈されていることから

魂が体から抜ける、

と言い伝えられている名残があることがわかりますね!


また、『倭名類聚抄』では

「くさめ」 という表現は出てこないため、

当時の正式な語彙としては

「気噴」が使われていた可能性が高いといえます。

しかし、「くさめ」という言葉は

庶民の間で呪文のように使われており、
それが後に「くしゃみ」へと

変化していったのではないかと考えられます。



因みに…

『倭名類聚抄』は単なる辞書ではなく、

東洋医学的な概念も含んでいました。

例えば、
・病名や薬草の和名も収録され、医療に関する知識の基礎となった。
•「気」に関する記述が多く、
 くしゃみ(気噴)も 「気の動き」として理解されていた。

• その後の日本の医療・薬学に影響を与えた。

というようなことがあります。


『節用集』

室町時代(15世紀頃)に作られた日本最古の国語辞書の一つ。

主に漢字の読み書きを学ぶために作られた、
現在でいう
「国語辞典」としての役割も果たしていました。


・言葉を植物、動物、天文、地理…

 などカテゴリに分けて掲載、整理されていた。

・漢字+その読み(訓読み・音読み)を記載していた。

・日本語の語彙とともに、 漢字の使い方を学べるようになっていた。

・江戸時代にかけて何度も改訂され、多くの人々に使われた。

(江戸時代には寺子屋の教科書としても利用されたようです) 


「節用(せつよう)」とは
「必要なものを選んで使う」 という意味があります。
つまり、『節用集』は

「日常生活に必要な漢字・言葉を集めた本」 ということです。

なので一般的な教養をつけるためにも

教科書として用いられるようになったのですね。


本題に戻りますが、

この書物に「くさめ」と「くしゃみ」のどちらも記載され、

後の江戸時代から「くしゃみ」の方が定着していったわけですね。


金元四大家の1人、劉完素が著した『素問玄機原病式』には

「嚔は鼻中の痒きによりて気噴し声を作すなり」とあります。

昔の中国でも”気噴”という表現が使われていたということは

日本へ輸入されたであろう言葉だということが考えられますね。


中医学は今では”噴嚏”になり、

日本では”くしゃみ” になりました。

魂が抜き取られる、という発想が
いかにも日本人らしいというか…

(カメラが輸入されたときもそのような考えがあったようですね。笑)
これは妖怪文化のある、日本独自の発想なのかなぁ?

など思ったりもしました。


今回はただの雑学的な話になりましたが…

最後まで読まれた方は

蘊蓄(うんちく)が1つ増えたのではないでしょうか?


これが役に立つかは…


わかりません( ̄▽ ̄)

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鍼灸 縁庵

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