鍼はどうやって日本に伝わったの?―東洋医学が日本で花開くまで

query_builder 2025/05/01
茨木_鍼灸東洋医学
鍼灸の歴史 後編

「鍼って中国発祥だとは知っているけれど、日本にはどうやって伝わったの?」

「日本の鍼って、中国のものとどう違うの?」
そんな疑問を持ったことはありませんか?


私自身も、学び始めた頃は

「鍼は中国のもの」と漠然と思っていました。
けれど学びを深めていくうちに、

日本独自の鍼灸文化が育まれてきたことを知り、

感動を覚えました。


鍼灸は単に“輸入された技術”ではなく、

日本の気質や工夫によって独自の進化を遂げてきた医術なのです。

たとえば、日本人特有の器用さや丁寧さは、

施術技術にも如実に表れています。
その繊細な手技は、世界的にも評価が高く、

日本の鍼灸師が行う施術は

「痛みが少ない」「繊細で心地よい」

と各国で注目されています。

今回は、鍼灸がどのようにして日本に伝わり、

どんな背景とともに根付いていったのか。
そして、現代へと続くその歩みを、

一緒に辿っていきましょう。


今回は鍼灸の歴史について綴っており、

後編部にあたります。

前編はこちらをご覧ください。

鍼っていつからあったの?―石から始まった東洋医学の奇跡


鍼灸の伝来:仏教とともに渡ってきた医術

鍼灸が日本に伝わったのは、6世紀ごろのことです。
仏教とともに、

中国の高度な文化や医術が伝えられました。


奈良時代から平安時代にかけては、

主に宮廷や貴族の間で活用され、
国家的な医学体系の中に鍼灸も取り入れられていきます。


特に有名なのが、

丹波康頼(たんばの やすより)による『医心方』
これは現存する、日本最古の医書であり、

当時の中国医学をベースに日本で編集された大著です。


鍼灸に関する記述も数多く収録され、

当時すでに体系的な理解が進んでいたことが伺えます。


(丹波康頼:912〜995年。『医心方』全30巻を編集し、朝廷に献上。亀岡市下矢田町に康頼が住み、薬草を育てたと言い伝えがある)


江戸時代:日本独自の鍼文化が開花

鍼灸が庶民にまで広がり、

江戸時代に、日本独自の技術として一気に花開きました。
この時期、多くの流派が生まれ、

個人による治療所の開設も盛んになりました。

中でも杉山和一による

「管鍼法(かんしんほう)」の発明は

現代の日本鍼灸に大きな影響を与えました。

鍼灸を学んだ方の中で

杉山和一先生を知らない方はいないでしょう。


和一は幼少期に病で視力を失い、盲目となった人物です。
しかし、仏門に入りながら鍼灸の道を志し、

やがて”痛みの少ない鍼”として今も使われる

「管鍼法」を発明します。


この管鍼法は、鍼を細い筒(管)に通して刺す技術で、
指先の感覚だけで刺入の深さ・角度を

精密にコントロールできるという利点があります。
鍼を直接刺す従来の方法よりも、

痛みが少なく、安全性が高いとされており
今日の日本鍼灸では

ほとんどすべてがこの技法を基礎にしています。


※当院は管鍼法ではなく撓入鍼法(とうにゅうしんほう)という(一社)北辰会の独自の技術を使用しております。


彼の功績はそれだけにとどまりません。

和一は、当時社会的に差別されていた盲人たちに

職業としての鍼灸を開く道を作りました。
江戸幕府の支援を受け、

「和一流鍼術稽古所(後の盲人教育施設)」を設立。
盲人が自立できる社会的仕組みとして鍼灸を位置づけ、
“目が見えなくてもできる医術”として広めたのです。


そして晩年、和一は自身の功績により、

徳川綱吉から

「筑後守(ちくごのかみ)」の官位を授かります。
盲人としてこのような高位に就いたのは

極めて異例であり、 いかに彼の人徳と実力が

評価されていたかがわかります。


明治以降:西洋医学との葛藤と再出発

明治時代、西洋医学が「近代的な科学」として

国策に採用された一方で、
鍼灸をはじめとする東洋医学は

「時代遅れ」「迷信」と見なされ、

急速に排斥されていきました。

特に1895年には、

「鍼灸免許制度の廃止」が発表され、

鍼灸の存続そのものが揺らぐ事態に…。


我々鍼灸師にとっては

”非常事態宣言”のようなものです。


学校教育からも東洋医学が締め出され、

「正式な医療」としての道が閉ざされていきます。


しかし、そんな逆境の中でも、

鍼灸の灯火を消さなかった人たちの活動と

庶民の間に根強く残っていた信頼、臨床的な効果により、

大正〜昭和にかけて少しずつ見直されていきます。


そして、昭和33年(1958年)には

「はり師・きゅう師」国家資格が制定され、
正式な医療資格としての地位を再び得ることとなりました。


現代の鍼灸:伝統と科学のはざまで

現代では、エンドルフィンや内因性オピオイドの放出、
自律神経の調整作用など、

鍼灸の科学的メカニズムについての研究が進んでいます。


WHO(世界保健機関)も、

多くの症状に対して鍼灸の有効性を認め、
アメリカやヨーロッパの医療現場でも

徐々に統合医療として取り入れられつつあります。

一方で、「経絡」「ツボ」など、

東洋医学の根幹にある概念は

まだ科学的に完全には説明されていません。
つまり、現代の科学が、
伝統医学の深みに

まだ追いついていない部分があるとも言えるのです。


こういったところに私は非常にロマンを感じます。


まとめ:鍼灸の物語は、まだ続いている

こうして振り返ってみると、

鍼灸はただの“古代の医療”ではありません。
それは日本で育まれ、

今もなお進化し続けている文化そのものなのです。


「鍼は人を治すだけでなく、社会と人をつなぐものでもある」


――日本の鍼灸史を辿ることで、

そんな深い気づきが得られます。

その旅路は、これからも、

私たちの手の中で続いていくのです。


次回は、前回に少しだけ触れた古代九鍼の歴史と

現在はどのように進化しているか?


の話をしていきたいと思います。



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鍼灸 縁庵

住所:大阪府茨木市永代町6-19 近藤ビル402

電話番号:090-3890-4915

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