便秘・下痢の原因と対策|西洋医学と東洋医学から読み解くお腹の不調
「何日も出ない日が続いて、お腹が苦しくてたまらない」
「急にお腹がゆるくなって、外出が怖くなってしまった」
——そんなお悩みを抱えていらっしゃいませんか?
便秘と下痢は、多くの方が日常的に経験する身近な不調です。「たかが便秘」「たかが下痢」と軽く思われがちですが、慢性化すると日々の生活の質(QOL)を大きく損ない、精神的な負担にもつながります。
また、なかには重大な疾患のサインである場合もあります。
本記事では、便秘と下痢の原因・分類を西洋医学と東洋医学の両面から整理し、体質タイプ別の見立てと、日常でできる養生法まで丁寧にお伝えします。
「病院では異常なし」と言われながらもお腹の調子に悩んでいる方にも、きっとヒントが見つかると思います。
👉 冷え性の原因と対策|「体質だから」とあきらめる前にもあわせてご覧ください。
便秘・下痢の西洋医学的理解
まずは西洋医学の観点から、便秘と下痢それぞれの定義と主な原因を整理します。
便秘とは
排便回数の減少や排便困難感を伴い、快適な排便が得られない状態を指します。日本消化器学会の「慢性便秘症診療ガイドライン2023」では「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。便秘は機能性便秘(腸の蠕動運動の低下・排便困難)と器質性便秘(大腸がんや腸閉塞など物理的な閉塞)に大別されます。
主な原因として、食物繊維・水分の不足、運動不足、ストレスによる自律神経の乱れ、加齢・ホルモン変化(女性では月経前・妊娠中に起こりやすい)などが挙げられます。
下痢とは
便の水分量が増加し、液状〜泥状の便が頻回に排出される状態です。一般的に1日3回以上の軟便・水様便が見られる場合を下痢と判断します。2週間以内に治まるものを急性下痢(感染症が最多)、4週間以上続くものを慢性下痢(過敏性腸症候群・炎症性腸疾患など)と分けます。ストレスによる自律神経の乱れ、冷たいものや刺激物の過食、抗生物質による腸内細菌叢の乱れなども主な原因です。
こんな症状があれば早めに受診を
便秘・下痢が続く場合でも、とくに「血便」「原因不明の体重減少」「強い腹痛」「高熱を伴う」「便通の性状が急に変わった」といった症状がある場合は、大腸がんや炎症性腸疾患など器質的疾患の可能性があります。自己判断せず、消化器科・内科への受診をおすすめします。便秘と下痢が交互に現れる「交替型」は、過敏性腸症候群(IBS)の混合型に多くみられるパターンです。
東洋医学と脾胃の関係
東洋医学では、便秘も下痢も「脾胃(ひい)」を中心とした臓腑の機能と、気・血・津液のバランスの乱れとして捉えます。
東洋医学の「脾(ひ)」は食べ物の消化吸収をつかさどり、栄養を全身に届ける臓。
「胃(い)」は食べ物を受け入れ、下へ送る役割を担います。この脾胃がしっかり働いていれば便通は正常に保たれますが、バランスが崩れると便秘や下痢が起こります。
脾胃を「身体の消化工場」に例えると分かりやすいでしょう。
工場の稼働力(気)が落ちれば処理が滞り(便秘)、工場に水が入り込めば不良品が流れ出す(下痢)
——そんなイメージです。
また、便通に関わるのは脾胃だけではありません。
「肝」は気の巡りを調整するため、ストレスで肝の疏泄(そせつ)機能が乱れると腸の動きにも影響します(ストレス性の便秘・下痢)。
「腎」は身体を温める力(腎陽)の源であり、腎陽が不足すると腸が冷えて動きが鈍くなります(とくに早朝の下痢)。
東洋医学では、同じ「便秘」「下痢」という症状でも、なぜそうなっているかを体質・症状から丁寧に見分けていきます。
これを「弁証論治(べんしょうろんち)」と呼び、「同病異治(どうびょういち)」——同じ病名でも、原因が違えば治療も変わる——という考え方を大切にします。
便秘の弁証パターン
東洋医学では、便秘を「なぜ出ないのか」という原因別に主に5つのタイプに分けます。
① 気滞型(きたいがた)── ストレスで腸が詰まるタイプ
ストレスにより肝の疏泄機能が乱れ、気の流れが停滞すると腸の蠕動運動も鈍くなります。
交通整理がうまくいかず、道路(腸)が渋滞しているようなイメージです。
排便したいのにスッキリ出ない、お腹が張る、ゲップ・おならが多い、イライラしやすいなどが特徴です。治療方針は「疏肝理気(そかんりき)」——
肝の気を巡らせて腸の動きを回復させること。
代表方剤として柴胡疏肝散(さいこそかんさん)・六磨湯(ろくまとう)などが用いられます。
② 気虚型(ききょがた)── 気のエネルギー不足で押し出せないタイプ
脾肺の気が不足すると、大腸が便を押し出す力(推動力)が弱まります。
ベルトコンベアの電力が足りなくて荷物が運ばれないイメージです。
便意はあるのに力めない、排便後に疲労感がある、息切れ、汗をかきやすいなどが特徴です。
高齢の方や慢性的な疲労を抱える方に多く見られます。
治療方針は「補気潤腸(ほきじゅんちょう)」——
気を補い、腸の推動力を立て直すこと。
代表方剤として補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などが用いられます。
③ 血虚型(けっきょがた)── 血の不足で腸が乾燥するタイプ
血が不足すると腸の潤いも減り、便が乾燥して硬くなります。
水やりを忘れた庭の土がカラカラに乾いて硬くなるイメージです。
便がコロコロと硬い、顔色が白っぽい、めまい、爪が割れやすい、肌の乾燥などが特徴です。
産後の女性・高齢者・慢性疾患をお持ちの方に多く見られます。
治療方針は「養血潤腸(ようけつじゅんちょう)」——
血を補い、腸に潤いを取り戻すこと。
代表方剤として潤腸湯(じゅんちょうとう)・四物湯(しもつとう)などが用いられます。
④ 実熱型(じつねつがた)── 余分な熱で腸の水分が蒸発するタイプ
辛いもの・脂っこいもの・アルコールの過剰摂取や、体質的に熱がこもりやすい方に見られます。
余分な熱が腸の水分を奪い、便が硬くなります。
便が硬く臭いが強い、口臭、口の渇き、顔の赤み、腹部の張り感などが特徴です。
治療方針は「清熱潤腸(せいねつじゅんちょう)」——
余分な熱を冷まし、腸を潤すこと。
代表方剤として麻子仁丸(ましにんがん)などが用いられます。
⑤ 陽虚型(ようきょがた)── 冷えで腸の動きが低下するタイプ
腎陽や脾陽が不足すると腸が冷えて動きが鈍くなります。
冬場に凍った水道管で水が流れにくくなるイメージです。
便が出にくく排便に時間がかかる、手足や腹部の冷え、腰のだるさ、顔色が白っぽいなどが特徴です。
高齢者や冷え性の強い方に多く見られます。
治療方針は「温陽通便(おんようつうべん)」——
陽気を補い身体を温めて腸の動きを回復させること。代表方剤として済川煎(さいせんせん)などが用いられます。
下痢の弁証パターン
下痢についても、なぜ水分の多い便になるのかを体質・症状から主に4つのタイプに弁別します。
① 脾気虚型(ひききょがた)── 脾の消化力が弱まって水分を処理しきれないタイプ
東洋医学でいう脾には「運化(うんか)」——
食べ物から栄養と水分を分離して全身に届ける機能があります。
この力が弱まると、余分な水分がそのまま腸に残り下痢になります。
ザルの目が粗くなって水ごと食材が流れ落ちるイメージです。
食後のお腹の張り、軟便〜水様便、食欲不振、倦怠感、むくみなどが特徴です。
治療方針は「健脾益気(けんぴえっき)」——
脾の運化機能を立て直すこと。代表方剤として参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)・六君子湯(りっくんしとう)などが用いられます。
② 肝鬱脾虚型(かんうつひきょがた)── ストレスで肝が乱れ脾にまで影響するタイプ
ストレスにより肝の疏泄機能が乱れると、そのとばっちりで脾の運化機能にも悪影響が出ます。
東洋医学ではこれを「肝木剋脾土(かんもくこくひど)」と表現します。
緊張するとすぐお腹がゆるくなる方はこのタイプに該当しやすいです。
ストレス・緊張で悪化する下痢、排便後に楽になる腹痛、ため息、脇腹の張り感などが特徴です。
過敏性腸症候群(IBS)と重なる部分が多いタイプでもあります。
治療方針は「疏肝健脾(そかんけんぴ)」——肝の気を巡らせながら脾を立て直すこと。
代表方剤として痛瀉要方(つうしゃようほう)・逍遙散(しょうようさん)などが用いられます。
③ 腎陽虚型(じんようきょがた)── 明け方に下痢が起こる冷えタイプ
腎陽が衰えると脾を温める力も不足し、陽気が最も低い明け方に下痢が起こります。
これを「五更瀉(ごこうしゃ)」——夜明けの下痢——と呼びます。
/火力の落ちたかまどでは鍋の水を温めきれない、というイメージです。早朝の下痢、下腹部の冷え、腰膝のだるさ・冷え、夜間頻尿などが特徴です。
高齢者に多く見られます。
治療方針は「温腎健脾(おんじんけんぴ)」——
腎陽を補い脾を温めること。
代表方剤として四神丸(ししんがん)・真武湯(しんぶとう)などが用いられます。
④ 湿熱型(しつねつがた)── 熱と湿気が腸を乱すタイプ
暴飲暴食、脂っこいもの・辛いものの過食、飲酒、または感染などにより「湿」と「熱」が体内に合わさって腸に影響します。
便が泥状〜水様で臭いが強い、排便時の灼熱感、腹痛、口が粘る、身体の重だるさなどが特徴です。
急性の感染性下痢もこのタイプに含まれることがあります。
治療方針は「清熱利湿(せいねつりしつ)」
——余分な湿気と熱を取り除くこと。代表方剤として葛根芩連湯(かっこんきんれんとう)などが用いられます。
毎日できる養生のポイント
鍼灸の施術と並行して、日常生活での養生を続けることが便通の安定につながります。
「すべてを完璧に」と気張らなくて大丈夫です。できることから少しずつ取り入れてみてください。
食養生のポイント
便秘の方へ 食物繊維(野菜・海藻・きのこ・豆類・全粒穀物)を十分に摂り、1日1.5〜2Lを目安に水分を補給しましょう。朝起きたら白湯をコップ1杯飲む習慣は、腸の蠕動運動を促すのに有効です。血虚型の方は黒ゴマ・ナツメ・蜂蜜など潤いを補う食材も意識すると効果的です。
下痢の方へ 冷たいもの・生もの・脂っこいものを控え、温かく消化のよい食事を基本にしましょう。米粥・山芋・鶏むね肉のスープなどが脾を助けます。脾気虚型・腎陽虚型の方はとくに冷えに注意し、生姜やシナモンなど温性の食材を取り入れましょう。
便秘・下痢を問わず共通して大切なのは、暴飲暴食を避けて規則正しく食事を摂ること、よく噛んでゆっくり食べることです。これだけでも脾胃の負担は大きく軽減されます。
生活リズムと運動
ウォーキングや軽いストレッチは腸の蠕動運動を促すとともに、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。
便秘の方は腹筋を意識した運動も有効です。
規則正しい排便習慣(毎朝決まった時間にトイレに座る)を心がけることで、排便反射が整いやすくなります。
十分な睡眠の確保も見逃せません。睡眠不足は自律神経の乱れを招き、腸の動きに直接影響します。
夜更かしを減らし、できるだけ同じ時間に起きる習慣をつけるだけでも、腸の調子が変わってくる方は少なくありません。
ストレスとお腹の冷え
便秘・下痢ともに、ストレスは大きな悪化要因です。
東洋医学的にいえば「肝鬱気滞(かんうつきたい)」の状態です。
深呼吸、散歩、入浴、趣味の時間など、ご自身に合ったリラックス法を生活に組み込みましょう。
とくに緊張でお腹がゆるくなりやすい方(肝鬱脾虚型)は、ストレスケアが施術の要になります。
また、下腹部の冷えは腸の動きを鈍くし、便秘にも下痢にもつながります。
腹巻き・湯たんぽ・温かい飲み物でお腹まわりを温めることは、最もシンプルで効果的な養生のひとつです。陽虚型・腎陽虚型の方は重点的に意識してみてください。
縁庵での鍼灸アプローチ
鍼灸 縁庵では、お腹の不調に対しても、東洋医学的な四診(望診・聞診・問診・切診)を丁寧に行い、舌の色・脈の状態・お腹の触感などからお一人おひとりの体質を読み取ります。
西洋医学的に「異常なし」と言われた慢性的な便秘・下痢でも、東洋医学の視点で見ると「脾虚」「肝鬱」「腎陽虚」など、明確な体質の偏りが見えてくることが少なくありません。その根本にアプローチするのが、縁庵の鍼灸施術の方針です。
お腹は敏感な場所でもありますので、初診時にはじっくりとお話を伺い、施術の圧や刺激量を細かく調整しながら進めていきます。「鍼は怖い」と思っていた方が、「こんなに穏やかなの?」と驚かれることもよくあります。
便秘も下痢も、身体が発しているサインです。「いつものことだから」と放置せず、ぜひ一度ご自身のお腹の声に耳を傾けてみてください。一緒に相談しながら、丁寧に整えていきましょう。
お腹の不調でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
鍼灸 縁庵では、体質に合わせた施術と養生のご提案を行っております。
まとめ:腸の声に耳を傾けよう
便秘について
機能性(蠕動運動の低下・排便困難)と器質性(大腸がんなど物理的な閉塞)に分類されます。東洋医学では気滞・気虚・血虚・実熱・陽虚の5タイプに弁証し、それぞれの原因に合ったアプローチを行います。
下痢について
急性(感染症など)と慢性(IBS・炎症性腸疾患など)に分けられます。東洋医学では脾気虚・肝鬱脾虚・腎陽虚・湿熱の4タイプに弁証し、根本原因に応じた施術・養生を行います。
養生の基本
食事のバランス(食物繊維・温かいもの・よく噛む)、適度な運動と規則正しい生活リズム、ストレスケア、そしてお腹を温めること。便通の異常が続く場合は、器質的疾患の除外のためにも医療機関での検査を受けましょう。
急ぐ必要はありません。ご自身のペースで丁寧に整えていきましょう。
参考文献
1) 日本消化器学会 編『慢性便秘症診療ガイドライン2023』南江堂, 2023年.
2) 日本消化器学会 編『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 ― 過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)』南江堂, 2020年.
3) 張伯臾 主編『中医内科学』上海科学技術出版社, 1988年.
4) 梁哲雄 編著『東洋医学概論(改訂第2版)』南江堂, 2015年.
5) 神戸中医学研究会 編著『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版, 2004年.
鍼灸 縁庵
住所:大阪府茨木市永代町6-19 近藤ビル402
電話番号:090-3890-4915
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