【症例】鍼1本で月経痛・頭痛が改善した1症例

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茨木_鍼灸東洋医学自律神経症例
月経痛に苦しむ-2


初診日:X年9月29日

本症例は、患者さんご本人から同意をいただいたうえで掲載しております。
同じようなお悩みをお持ちの方の参考になれば幸いです。

患者さん情報

20代 女性 京都市 職業:看護師 

お悩みの症状

主訴:月経痛

月経開始1日目に、下腹部に固定した強い痛みが間歇的(波のように繰り返し)に生じる。

過去に月経痛がひどすぎて失神した経験があり、その恐怖心から月経直前にロキソニンを服用するのが当たり前になっている。
そのため、服薬していない場合の正確な痛みの程度は不明。

温めると楽になり、冷えると悪化する。無意識にお腹をよくさすっている。


PMS(月経前症候群)もあり、月経前には食欲増加、イライラしやすくなる。
月経前日には必ずといっていいほど側頭部の拍動性の頭痛が起こる。


愁訴:腰痛

左右差なく、腰の下部中央付近が普段は重だるく痛み、たまにズキンとした痛みがある。
2年に1回ほどぎっくり腰を起こすことがある。

最近、健康のためにランニングを開始したが、走った翌日に腰痛が強くなる気がする。

既往歴〜現病歴

出生〜幼少期

母子家庭で、裕福な家庭ではなかった。小児喘息とアトピー性皮膚炎があり、15歳頃まで続いていた。
発達曲線は問題なく、基本的には元気に過ごしていた。

小学生時代

兄弟からの罵倒や学校でのいじめがあり、体型や容姿に自信がなかった。
体重計に乗るのが怖く、「太りたくない」という感情を抱くようになる。
初潮は12歳。この頃は月経痛はなく、定期的に月経は来ていた。

中学校時代

バドミントン部に所属し、練習にも問題なくついていけていた。
中学2年生のときに両親が離婚。
立ち直りは早かったが精神的ショックはあった。
この頃から月経痛が出現するが、服薬するほどではなかった。

高校時代 ―― 月経痛が悪化

帰宅部になり運動習慣がなくなった。
マクドナルドでアルバイトをし、賄いをよく食べるようになったこともあってか、3年間で体重が10kg増加。バイト先の環境が冷えやすかったかは覚えていないが、靴下の締めつけ感が苦手で裸足で過ごすことは日頃から多い。

高校時代から月経痛がひどくなり、周期も乱れるようになった。2ヶ月空くことが多く、ひどいときは3〜4ヶ月来ないこともあった。
期間が空いたときほど月経痛は激しい。

痛みで歩けなくなったり、酸欠で手が震えたり、失神して救急車で運ばれることもあった。
人に迷惑をかけないよう、月経直前から痛み止めを服用するようになった。

10代後半〜20代前半

保育関係の短期大学に進学。
月経痛が落ち着き、月経も毎月来るようになった。
患者さん自身は、飲食の乱れが月経痛悪化の原因だったのではないかと振り返っている。
体重を落とすために水泳など全身運動を定期的に取り入れるようになった。
20歳で就職するも、やりがいはあったものの給与面で将来の生活に不安を感じ、23歳で退職。
この頃も月経痛は落ち着いていた。

24歳 ―― 看護学校に入学

外食が多く、飲み会にもよく参加。
居酒屋でアルバイトし、帰宅後に食事を取ることもあって食生活は全体的に乱れていた。
一度、月経前に服薬し忘れた際に激痛で倒れることがあった。

〜現在(来院のきっかけ)

看護師として就職後、職場の人間関係や仕事内容への不満が重なり、ストレスが蓄積されていった。
顔を見るだけで頭が痛くなるような苦手な上司もいる。

働き出してから以下の不調が出現。

・月経が遅れがちになった(2週間ほど遅れるのが当たり前に)

・経血量が減少し、色が黒っぽくなった

・偏頭痛がきつく、嘔吐することがある

・ランニングを始めたが、走ると腰痛が強くなる

友人の紹介を経て、鍼灸 縁庵に来院。

その他の情報

初診日の1週間ほど前、ストレスから仕事終わりに外食で大量に食べる日が数日続いた後、胸焼けと胃のむかつき感が出現し、嘔吐することがあった。
嘔吐後は疲労感があったが、7時間ほどの睡眠で軽減。
ただし、初診日まで胃のむかつき感が続いている。


体表観察情報

東洋医学では、身体の外に現れるさまざまなサインを手がかりに、内側の状態を読み解いていきます。
以下は実際に行った診察の記録です。

顔面気色診

神:栄(生命力はしっかりしている)
形:肥〜中
腠理:密
膏沢:有
色:心に赤黒、肝に青黒(沈んでいる)、脾胃に赤黒、腎にやや青白
口唇波暗紫色で、人中の深さある程度あり。

舌診

舌色:やや紅舌気味
舌苔:白薄膩苔(白っぽく薄い苔に、やや粘り気がある)
舌腹:暗紅色で、血管の浮き出し(怒張)がきつい。

脈診

1息3至半(やや遅め)。脈力・巾・重按ともにしっかりしている。
左の寸口・関上に枯脈(潤いの乏しい脈)。
右は濡緩滑脈、左は緩滑脈。

腹診

心下(みぞおち付近)〜両脾募、胃土の左寄り、左肝相火、小腸、右腎相火に邪の反応あり。
左少腹部に圧痛(急結)を認める。

背候診

左心兪・左神堂に虚中の実。
右肝兪に実、左肝兪に虚中の実。
右胃兪・胃倉に虚。
左小腸兪に虚。
神道・至陽・鳩尾に圧痛あり。

原穴・経穴診

右太白に虚。
左太衝に実、右太衝に虚中の実。
左後渓に実。
左足臨泣に虚中の実。
右三陰交に実。
左公孫に虚中の実。
右照海に虚。

東洋医学的な診断名(証)

肝鬱化火 → 犯胃・気滞血瘀 > 腎陽虚

やさしく読み解くと、この患者さんの身体では以下のようなことが起きていたと考えられます。

肝鬱化火(かんうつかか)
職場の人間関係などの慢性的なストレスにより、肝の気が長期にわたって鬱滞し、やがて熱(火)に変化した状態。
イライラや偏頭痛はこの「火」の表れです。

犯胃(はんい)
肝の火が胃にまで及び、胃のむかつきや胸焼けを引き起こしている状態。
また、胃の降濁作用が失調し、胃気上逆することで嘔吐を引き起こしていると考える。
ストレス発散による暴食後に胃の不調が出たことから、摂食による胃熱の蓄積も助長因子と考えます。

気滞血瘀(きたいけつお)
気の滞りに引きずられて血の巡りも悪くなった状態。月経痛(固定した強い痛み)、経血色の黒さ、口唇の暗紫色、舌裏の怒張がこれを裏づけています。

腎陽虚(じんようきょ)
身体を温める「腎の陽気」がやや不足している状態。冷えで月経痛が悪化すること、腰部の重だるさ、右照海の虚などがこれを示唆しています。
あと上記していませんが、いつも足が冷えるともおっしゃっていました。

治療経過

第1診

処置:左 梁門(りょうもん) ── 5番鍼で15分 置鍼

処置直後の変化:

舌の色が明るくなり、舌裏の暗さが軽減。舌裏の浮き出ていた血管が緩和

左少腹部の圧痛が消失

右太白の虚、太衝の左右差、右照海の虚、神道の圧痛がそれぞれ改善

第2診

前回施術後、排便がよくあり、ガスもよく出た印象とのこと。
胃のむかつき感は消失。
腰痛は不変。
前日に仕事で強いストレスを感じ、その晩に頭痛が発生。

処置:左 後渓(こうけい) ── 2番鍼で20分 置鍼

第3診

2日前に月経があった。

前日に頭痛が出なかったため月経が来ると思っておらず、服薬していなかったが、月経痛もなかった。

睡眠もいつもより熟睡できるようになっている。

処置:左 膈兪(かくゆ) ── 5番鍼で20分 置鍼(月経3日目という点を考慮した選穴)

その後の経過

以降、定期的に来院。

月経痛は、ハードな日が続いて精神的疲労が積み重なった時期に増悪傾向にあるものの、以前のような強い痛みは起こらず、「気になる程度」で過ごせているとのこと。

腰痛に関しては楽に感じる日が増えており、ぎっくり腰を起こすことなく生活できるようになった。
(一度、多忙のため1年ほど来院されなかった期間があったが、ぎっくり腰をきっかけに再来されています(笑))


まとめ

この症例は、慢性的なストレスが肝の鬱結を招き、それが火に転じて胃を犯し、さらに気滞血瘀として月経痛・頭痛・経血異常として表れていた
――という、東洋医学的に非常に典型的なパターンでした。


高校時代の急激な体重増加と食生活の乱れ、就職後のストレスの蓄積、そしてそれぞれの時期で月経の状態が変化していったという経過は、月経が全身の状態を映し出す「バロメーター」であることをよく表しています。

また、本人は覚えていない様子だが…
アルバイト先のマクドナルドや居酒屋は足元が冷える環境であり、日頃から裸足で過ごすことが多いことから、慢性的に身体の下部を冷やしていたことにより腎陽を傷め、上熱下寒傾向にあったかもしれない。
故に下焦では寒邪の影響で、一層瘀血を発生させやすかったのかもしれない。


第1診で左梁門への1本の鍼により、舌や腹部の所見が即座に変化したこと。

そして第3診では、服薬なしで月経痛が起こらなかったこと。


これらは、患部に直接アプローチするのではなく、身体全体の気血のバランスを整えることで症状が変化するという、東洋医学的治療の特徴をよく示しています。

「痛い場所に鍼を刺す」のではなく、全身の気血の巡りと臓腑の関係性を総合的に判断したうえで、最も必要な1本を選ぶ ―― 当院ではこうした弁証論治に基づいた施術を行っております。


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