【症例】片頭痛・めまい・動悸を伴うパニック障害が改善した1症例
患者情報
20代後半・女性
パート勤務(医療関係)
主訴
- 片頭痛(右コメカミに固定した拍動性の痛み。頭痛がない日の方が少ない)
- めまい(頭の位置を変えた時にグルンと目が回る。閉眼してもフワフワと浮いているような感覚)
- 嘔気・嘔吐(常に胃の不快感があり、片頭痛が強い時や乗り物に乗ると増悪。電車で途中下車して嘔吐することも)
- 動悸(仕事の前夜や当日の朝、仕事のことを考えると胸がざわつき、息苦しさや不安感を伴う動悸が出現)
現病歴
もともと緊張しやすい性格。
幼少期から厳格な家庭環境のもとで過ごしていた。
高校時代から月経痛が強くなり、経血量の増加や血塊も見られるようになる。
また、この頃から食間に手の震えや血の気が引くような感覚があり、のちに反応性低血糖症と診断される。
片頭痛(偏頭痛とも表記されます)もこの頃から出現。
専門学校時代は学業のプレッシャーや食生活の偏り、生活環境のストレスが重なり、便秘や過食傾向に。
21歳で就職後、人間関係や業務のストレスから次第に胸のソワソワ感が出現。
それが動悸へと変化し、やがて発作的に強い不安感を伴う動悸が起こるようになり、精神科で「うつ病・パニック症」と診断された。
半年で休職し、服薬治療を開始。
休職中は外出時に動悸や不安感が出現することもあった。
その後、復職と休職を繰り返しながら、現在はパート勤務で週3〜4日働いていたが、仕事を任される場面が増えたことをきっかけに、再び動悸が出現。
さらに今回は、これまでとは異なるコメカミ付近の片頭痛、嘔気・嘔吐、めまいが加わる。
特に、片頭痛が強い日は嘔気も強く、電車で途中下車して嘔吐してしまうこともあり、最近では自転車にも乗れなくなった。
めまいに関しては耳鼻咽喉科で「良性発作性頭位めまい症の疑い」と言われたが、経過観察のみ。
不定愁訴が多いにもかかわらず、どの検査でも器質的な異常は見つからず、「自律神経の問題だろう」と感じつつも解決策がないまま過ごしていたところ、知人の紹介で当院を知り、来院するに至った。
東洋医学的所見
体表観察
・顔面診:神―栄、形―中、膏沢―有、腠理―普通
・気色診:肝―黒、脾―黒、腎―赤黒、膀胱・子宮―青白
・舌診:舌色は淡紅〜やや紅。舌の先端は右寄りに偏った紅みあり。薄白膩苔。の裏側の静脈が怒張(血の滞りを示唆)。
・脈診:滑脈でやや弦。左右ともに力があり、深いところでもしっかり触れる。
・腹診:心下から右脾募(鳩尾から右脇腹)にかけて邪が顕著。少腹急結(鼠蹊部付近)にも緊張感・圧痛あり(左>右)。
・背候診:右肝兪(かんゆ)・膈兪(かくゆ)に虚中の実の反応。左膀胱兪に熱感。神道・巨闕兪に圧痛。
・経穴原穴診:右神門―実、左太白―虚中の実、左公孫―虚中の実、左太衝―虚中の実、左足臨泣―実、左三陰交―実、左血海―実
弁証
これらの所見を総合して、以下のように考えた。
主たる病因:七情不和(しちじょうふわ)
仕事のプレッシャーや人間関係のストレス、幼少期からの家庭環境が長期にわたって精神的な負担となり、「肝」に大きな影響を与えている。
肝鬱気滞(かんうつきたい)
ストレスにより肝の「疏泄(そせつ)」機能
——気の巡りを調節する働きが障害され、気が滞っている状態。
仕事のことを考えると動悸が出て、実際に働き始めると緩解するという訴えは、まさに肝気の鬱滞を示している。
肝気の上逆と痰湿(たんしつ)
停滞した肝気が上に突き上げることで片頭痛やのぼせが生じ、さらに脾(消化機能)にも影響を及ぼして「肝脾不和(かんぴふわ)」の状態となり、表裏関係にもある胃の機能が乱され、嘔気・嘔吐が発生。
加えて、脾が弱ることにより、体内の水分代謝が滞って「痰湿」が生じ、めまいの原因にもなっていると考えられる。
心気不暢(しんきふちょう)
肝の鬱滞が母子関係にある心にも波及し、動悸・不安感・胸苦しさが生じている。
一見バラバラに見える片頭痛・めまい・嘔気・動悸という4つの主訴ですが、東洋医学の視点で紐解くと、「肝の気の乱れ」を起点として連鎖的に発生していることが見えてきます。
治療方針と経過
治療方針
肝気の鬱滞を解消し、気の巡りを回復させることを基本方針とした。
また、痰湿の除去と脾の働きの回復も並行して行い、都度の体表観察で最も効果的なツボを見極め、少数配穴で対応する。
【施術経過】
初診(第1診)
体表観察から下腹部に血の滞りがあり、それによって気が上半身に偏在していると判断。
下半身の血の巡りを改善する配穴で施術。
処置:左足臨泣 2番鍼 置鍼15分
施術後、腹部の張りや緊張に緩みが確認。
1週間に2回ペースで通うように伝える。
第2診
前回後、翌日に片頭痛・嘔吐・めまいが出現し2日間続いたものの、その後は緩解。
初回の刺激量がやや強かったと判断し、調整して施術。
また、主訴に対して瘀血は関係してなさそうと判断。
処置:右後渓 2番鍼 置鍼15分
第3診
片頭痛・めまい・嘔気がすべて消失。
以前からあった後頭部の重だるい頭痛が出ているが、来院時の主訴であった症状は出ていない(この重だるい頭痛は痰湿由来だと考えた)。
動悸は仕事前にまだ出現。月経後であることも考慮し、脾を補うことも視野に入れる。
処置:左公孫 2番鍼 置鍼 20分
排便がしっかりあり、スッキリしたとのこと。
第4診
片頭痛なし、動悸なし、軽いめまいが1日あったのみ。
食欲が出てきておいしく食べられるようになったと笑顔で報告。排便の調子も良好。
根本である肝に着目した施術を行う。
処置:左太衝 2番鍼 置鍼 20分
以降、週1回のペースに移行。
第7診
月経があったが、専門学校時代から続いていた排便時の激痛が緩解。
月経痛はあるものの、片頭痛と嘔吐は週の半ばから消失し、以降は調子が良い。
打鍼(だしん)を用いた施術も取り入れる。
第9診
2週間のうち、半日だけ軽い頭痛があった程度で、ほぼ元気に過ごせているとのこと。
高校時代から悩まされていた反応性低血糖症由来の午前中の低血糖症状もかなり改善。
以降、メンテナンスとして定期的な施術を継続中。
考察
本症例は、片頭痛・めまい・嘔気・動悸という多彩な主訴を持ち、西洋医学的な検査では明確な器質的異常が見つかっていませんでした。
東洋医学的には、幼少期からの家庭環境や就職後の強いストレス(七情不和)を主たる病因とし、「肝鬱気滞」を中心に、心気不暢(動悸・不安)、肝脾不和(嘔気・嘔吐)、痰湿(めまい)、肝陽上亢(片頭痛)と、いずれの症状も肝の気の乱れから連鎖的に派生していると捉えました。
治療では、早い段階で主訴に対する瘀血(おけつ)の関与の程度を見極め、肝気と脾気に着目して都度対応したことが功を奏したと考えます。
第3診の時点で片頭痛・めまい・嘔気が消失し、第4診では動悸もなくなり食欲が回復するなど、比較的短期間で改善に向かいました。
また、高校時代から続いていた反応性低血糖症の症状が改善傾向にあることも、脾気の回復を示す重要な所見です。
これは「肝脾不和」が解消に向かっている証左と言えるでしょう。
本症例のように、
「検査では異常がない」
「不定愁訴が多い」
「原因がわからない」と悩まれている方にこそ、東洋医学の丁寧な弁証論治(べんしょうろんち)
——身体を総合的に診て、根本原因を見つけ出す
——というアプローチが力を発揮すると考えています。
今後はメンテナンスを継続する中で、ピルなしでも月経が安定するよう、さらなる体質改善を目指していく方針です。
※ 本症例は患者さまのご同意を得た上で掲載しております。個人が特定されないよう、一部を改変しております。
※ 鍼灸施術の効果には個人差があります。すべての方に同様の結果を保証するものではありません。
→ パニック障害の原因と対策|西洋医学と東洋医学から読み解く心身の不調
鍼灸 縁庵
住所:大阪府茨木市永代町6-19 近藤ビル402
電話番号:090-3890-4915
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