【症例】更年期障害によるホットフラッシュをはじめとした諸症状の一症例

query_builder 2026/03/22
茨木_鍼灸東洋医学自律神経症例
更年期障害の症例

患者情報

50代後半・女性
茨木市在住・医療介護職


主訴

ホットフラッシュ(仕事中に焦った時や考え事をした時にカッと暑くなり、上半身にじんわり汗をかく。汗をかいたと思ったら急に寒く感じることもある)
気分の落ち込み(物事を前向きに捉えられない、気力が湧かない)
下肢の浮腫み・だるさ


現病歴

もともと几帳面で責任感の強い性格。
医療介護の分野で長年にわたり勤務。

30歳代後半、業務量の増加により精神的に追い詰められ、考えがまとまらない、勝手に涙が出るといった症状が出現。
なんとか乗り越えたものの、その後も仕事上のストレスは続いていた。

54歳の時、顧客からのハラスメントをきっかけに動悸、下痢、涙、食欲低下、睡眠の質の低下が出現し、心療内科で適応障害と診断。
3ヶ月間の服薬で症状は緩解したが、以降もなんとなく気分がすぐれない日が続くようになった。


55歳の1月に閉経

年々出血量は減っていたが、予兆なく月経がピタッと止まった。
その後から仕事中に焦った時などに、カッと暑くなって上半身に汗をかくホットフラッシュが出現。

医師の勧めで漢方薬(桂枝茯苓丸)を服用し始めたところ、逆に症状が増悪したため中止。


自身で東洋医学に興味を持ち、お灸のセルフケアを数ヶ月継続したところ、ホットフラッシュは一度消失。


しかし同年12月、体調を崩して1週間寝込んだタイミングと、仕事で使うシステムの変更が重なり、目の疲れや肩こりが強くなるとともに、気持ちが億劫になっていった。
年明けから止まっていたホットフラッシュが再出現。
さらに2〜3月の繁忙期に入ると気分の落ち込みが強くなり、気力が湧かず、物事を前向きに考えられなくなった。

薬に頼ることへの抵抗もあり、インターネットで当院を見つけて来院される。

【その他情報】
・予診票を時間をかけて丁寧に記載していたことからも几帳面であることが窺い知れる。
・慢性的に肩〜首こりがあり、デスクワークで増悪傾向
・雨天前の曇天時になんとなく身体がだるい

・毎年春先〜梅雨あたりまで調子が優れない

東洋医学的所見

体表観察

【顔面・気色診】
神:栄、形:中、腠理:密、膏沢:有

気色:心黒・肝青黒(top)・腎赤黒、膀胱子宮青黒

口唇:暗紫色、人中そこそこ深い

【舌診】
舌色:やや紫がかった淡紅色
舌苔:薄い黄色の膩苔(ねったいごけ)あり
舌裏にわずかな静脈の怒張(血管の浮き出)あり


【脈診】
左右ともに巾・力あり
左の関上と尺中に枯弦脈(硬い脈)が見られ、
左の寸口が伏せて(沈み込んで)いる。

【腹診】
心下(みぞおち)から左脾募、左肝相火の緊張が強い。
右下腹部に少腹急結(強い緊張)、圧痛あり。

【背部】
特に右側の肝兪(かんゆ)から胃兪(いゆ)にかけて張りが強く、一部膨隆あり。
巨闕兪・神道・鳩杞・腰奇の圧痛あり。

【原穴・経穴診】
右太渓の虚、右照海の虚、右太衝の虚中の実、左公孫の虚中の実、左血海の実、右至陰・足竅陰の感覚が鈍麻

弁証

これらの所見を総合し、以下のように考えた。

腎陰虚(じんいんきょ)
東洋医学では、閉経は「腎」の力
——特に身体を潤し冷ます「陰」の力
が自然と衰えていく過程と捉えます。
陰が不足すると、相対的に身体の中で熱が余りやすくなり、ホットフラッシュ(のぼせ・発汗)が生じます。
たとえるなら、身体の冷却水が減ってエンジンがオーバーヒートしやすい状態です。
(→ 詳しくは当院ブログ「更年期障害の原因と対策」もご参照ください)


肝鬱気滞血瘀(かんうつきたいけつお)
長年にわたる仕事のストレスや責任感の重さが「肝」に大きな負担をかけ、気の巡りが滞っている状態です。
さらに気の滞りが長期化したことで、血の巡りにも影響が及んでいる(瘀血)と考えました。
気分の落ち込み、意欲の低下、肩こりはこの肝鬱気滞と深く関連しています。


本症例では、閉経による「腎陰虚」と、ストレスによる「肝鬱気滞血瘀」が同時に起きていることで、ホットフラッシュ(腎陰虚の症状)と気分の落ち込み(肝鬱の症状)が重なり合っていると捉えました。


なお、漢方薬の桂枝茯苓丸で増悪したという経緯は非常に重要な情報です。

桂枝茯苓丸は瘀血を取り除く処方ですが、本症例では腎陰虚のウエイトが大きいため、温性の桂枝が合わなかったこと。
少しキツい方剤のため、正気(体力)を傷つけた可能性が考えられます。

東洋医学では「同じ更年期障害でも、体質によって合う処方は異なる」

——まさに同病異治(どうびょういち)の典型例と言えます。


治療方針と経過

治療方針

腎陰を補い、身体の「冷却機能」を回復させることを基本としつつ、肝鬱気滞の解消を図ることで、ホットフラッシュと気分の落ち込みの両方にアプローチする方針とした。

施術経過

初診(第1診)

左 承満 3番鍼で 15分 置鍼
抜鍼後に出てきた右照海の虚に古代鍼® で補法


施術後の変化として、
舌の裏側の色が明るくなり、脈の硬さが緩和。
腹部の緊張も緩み、良い変化が確認できました。


第2診(3日後)
「なんとなく気持ちがスッキリした気がする」と報告。
ホットフラッシュの頻度が減り、身体の浮腫みが軽くなっているとのこと。
肝の疏泄と脾の働きを考慮した配穴で施術。
活血も考慮。
処置:右章門 5番鍼 置鍼 20分


第3診(さらに4日後)
「前回後、身体がかなり軽くなった」と笑顔で報告。
ホットフラッシュが立て続けに起こっていた状態から、1日5回ほどまで大幅に減少
腎陰を補うことに重点を置いた配穴で施術。

処置:左 照海 2番 置鍼 20分


以降の経過
定期的に通院を継続。
ホットフラッシュはたまに起こる程度で全然気にならなくなった。
気持ちが前向きになり、ちょっとやそっとのことは気にならなくなった。
初診時が毎年つらいと感じていた春シーズンでしたが、大きく体調を崩すことなく過ごすことができたとのこと。


考察

本症例は、閉経後のホットフラッシュと、長年のストレスによる気分の落ち込みが重なった更年期障害の一例です。

東洋医学的には「腎陰虚」と「肝鬱気滞血瘀」の複合と捉え、腎陰を補いながら肝気の巡りを回復させるアプローチで改善に向かいました。

特に注目すべきは、初診からわずか1週間(3回の施術)でホットフラッシュが大幅に減少したことです。


また、桂枝茯苓丸で増悪した経緯は、東洋医学における個別化治療の重要性を示しています。

「更年期障害だからこの漢方」

「ホットフラッシュだからこの処方」

と画一的に決めるのではなく、一人ひとりの体質と身体の状態を見極めた上で、最適な施術方針を立てることが大切です。


本症例の方はご自身でお灸のセルフケアにも取り組まれており、東洋医学に対する理解と関心が高いことも、改善を後押しした要因の一つと考えます。

施術とセルフケアの両輪で、より良い状態を維持していくことが今後の目標です。

※ 本症例は患者さまのご同意を得た上で掲載しております。個人が特定されないよう、一部を改変しております。
※ 鍼灸施術の効果には個人差があります。すべての方に同様の結果を保証するものではありません。



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鍼灸 縁庵

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