肩こりの原因と対策|「揉んでも治らない」肩こりの正体
はじめに
肩こりは、日本人が日常的に感じる身体の不調のなかで、男性では2位、女性では1位に挙がる極めて身近な症状です(厚生労働省「国民生活基礎調査」)。
「マッサージに行ってもすぐ戻る」
「湿布を貼ってもラクにならない」
「もう何年もこの重さと付き合っている」
――こうした声は、臨床の現場でも非常に多く聞かれます。
実は、肩こりの多くは「肩だけの問題」ではありません。
姿勢や筋肉の疲労はもちろんですが、その背景にはストレス、内臓の疲れ、血行不良、さらには自律神経の乱れなど、身体全体のバランスの問題が隠れていることが少なくないのです。
本記事では、肩こりを西洋医学と東洋医学の両面から読み解き、タイプごとの違いや日常でできる養生法、そして鍼灸によるアプローチについてお伝えしていきます。
西洋医学から見た肩こり
肩こりとは
肩こりとは、首から肩、背中の上部にかけての筋肉が緊張し、重だるさや痛み、張りを感じる状態の総称です。
医学的には「頸肩腕症候群」や「筋筋膜性疼痛症候群」の一部として扱われることもありますが、多くの場合、明確な病名がつかないまま「肩こり」として扱われています。
主に僧帽筋(そうぼうきん)、肩甲挙筋(けんこうきょきん)、菱形筋(りょうけいきん)といった筋肉が関与しており、これらの筋肉が持続的に緊張することで血流が低下し、疲労物質が蓄積して痛みやこりを引き起こします。
肩こりの主な原因
肩こりの原因は大きく分けて、筋肉・骨格に由来するものと、全身的な要因に由来するものがあります。
姿勢の問題:デスクワークやスマートフォンの長時間使用により、頭が前に出る「ストレートネック」の状態が続くと、首や肩の筋肉に大きな負担がかかります。
成人の頭の重さは約5kgありますが、頭が前に傾くほどその負荷は2倍、3倍と増加します。
精神的ストレス:緊張や不安は交感神経を優位にし、無意識のうちに肩をすくめるような筋緊張を引き起こします。
ストレスが慢性化すると、筋肉の緊張も慢性化し、揉んでも揉んでも戻る「頑固な肩こり」につながります。
眼精疲労:パソコンやスマートフォンの画面を長時間見続けると、目の周囲の筋肉が疲労し、その緊張が後頭部から首、肩へと連鎖的に広がります。
冷え:身体が冷えると血管が収縮し、筋肉への血流が低下します。
特に冬場やエアコンの効いた室内で肩こりが悪化しやすいのはこのためです。
運動不足:肩周りの筋肉を動かす機会が減ると、筋力が低下し、血行も悪くなります。
とりわけデスクワーク中心の生活では、肩甲骨周辺の筋肉がほとんど使われず、こり固まりやすくなります。
このほか、頸椎の変形(頸椎症)、高血圧、貧血、甲状腺機能低下症、さらには心疾患など、内科的な疾患が肩こりの原因になっていることもあります。
長期間改善しない頑固な肩こりは、一度医療機関で検査を受けることも大切です。
西洋医学での治療
西洋医学では、消炎鎮痛剤や筋弛緩薬の処方、湿布、温熱療法、ストレッチ指導などが一般的な治療法です。
痛みが強い場合にはトリガーポイント注射(痛みの引き金となるポイントに局所麻酔薬を注射する方法)が行われることもあります。
これらは症状の緩和には有効ですが、姿勢やストレスといった根本的な要因が解消されないかぎり、再発を繰り返しやすいのが現状です。
東洋医学から見た肩こり
「肩こり」は結果であり、原因は別にある
東洋医学では、肩こりそのものを「病名」として扱うのではなく、身体の気血津液(水)のバランスの乱れが「肩」に症状として表れたものと考えます。
つまり、肩こりは"結果"であり、"原因"は別のところにある
——この視点が東洋医学の大きな特徴です。
また、肩や首は多くの「経絡(けいらく)」——
気血が流れる道すじが集中する交差点のような場所です。
胆経、小腸経、三焦経、大腸経など、複数の経絡が肩周辺を通っています。
どの経絡が滞っているかによっても症状の出方や痛む場所が変わるため、「肩こり」と一括りにはできないのです。
だからこそ、同じ「肩こり」であっても、人によって原因がまったく異なり、アプローチも変わります。
これが「同病異治(どうびょういち)」の考え方です。
肩こりに関わる代表的な病態パターン
東洋医学の視点から、肩こりの背景にある代表的な病態をご紹介します。
肝気鬱結(かんきうっけつ):ストレスや感情の抑圧によって、「将軍の官」と呼ばれる肝の気の流れが滞った状態です。
肝は全身の気の巡りを調節する司令官のような役割を担っており、これが鬱滞すると気血の流れが悪くなり、肩や首の張り・こりとして現れます。
イライラしやすい、ため息が多い、脇腹が張るといった症状を伴うことが多く、ストレス社会に生きる現代人にとりわけ多いパターンです。
気血両虚(きけつりょうきょ):過労、睡眠不足、栄養不足などにより、身体を動かすエネルギー(気)と栄養(血)の両方が不足している状態です。
たとえるなら、ガソリンもバッテリーも足りない車のようなもの。
筋肉に十分な栄養が行き届かず、疲れやすく、だるい肩こりになります。
揉むと気持ちいいけれどすぐに戻る、夕方になると特にひどくなる、という方に多く見られます。
更年期世代の女性にもよく見られるパターンです。
風寒湿邪(ふうかんしつじゃ):外部からの冷えや湿気(東洋医学では「外邪」と呼びます)が身体に侵入し、経絡(けいらく=気血の通り道)の流れを阻害している状態です。
冷房の風に長時間当たった後や、寒い季節や梅雨どきに肩こりがひどくなるような場合は、このパターンが疑われます。
天候や気温の変化に敏感な方に多いのが特徴です。
瘀血(おけつ):血の巡りが悪くなり、古い血が停滞している状態です。
東洋医学では「通じざれば則ち痛む(不通則痛)」という言葉があり、流れが
滞った場所に痛みが出ると考えます。
肩の特定の部位がズキズキと刺すように痛む、夜間に痛みが増す、舌に暗紫色の斑点がある、といった方に見られます。
同じ姿勢を長時間続けるデスクワーカーや、ストレスによる気の滞りが長期化した方にも多いパターンです。
このように、東洋医学では「なぜこの人は肩がこるのか」を一人ひとり丁寧に見極めていきます。
マッサージや湿布で一時的に楽になっても繰り返す肩こりは、こうした根本的な体質やバランスの乱れにアプローチしない限り、改善が難しいのです。
肩こりと他の症状とのつながり
「肩こりだけ」で来院される方は、実はそれほど多くありません。
多くの場合、頭痛、めまい、自律神経の不調、不眠、眼精疲労といった症状を併せ持っています。
東洋医学ではこれらを「バラバラの症状」とは見ません。
たとえば、肝気鬱結が原因で肩がこっている方は、同じ肝の乱れから頭痛やイライラ、不眠が生じていることが多く、肩こりの根本にアプローチすることで、これらの症状も連動して改善に向かうケースが少なくありません。
逆に言えば、肩こりを「肩だけ」の問題として切り離して対処している限り、繰り返しから抜け出しにくいとも言えます。
身体はすべてつながっている——
東洋医学が数千年にわたって大切にしてきたこの視点は、「なぜこの肩こりは治らないのか」という問いに対する、ひとつの答えになるかもしれません。
日常でできる養生法
肩甲骨を動かす
肩こりの改善にまず取り入れていただきたいのが、肩甲骨を意識的に動かすことです。
両手を肩に乗せ、肘で大きな円を描くようにゆっくり回す
——前回し・後ろ回しをそれぞれ10回ずつ。
これだけで肩甲骨周辺の血流が改善し、こり固まった筋肉がほぐれやすくなります。
デスクワーク中、1時間に1回の目安で行うのがおすすめです。
目を休める
眼精疲労から肩こりにつながっている方は、意識的に目を休める時間を作りましょう。
パソコン作業中は20分ごとに20秒間、6メートル以上遠くを見る「20-20-6ルール」が推奨されています。
また、蒸しタオルで目を温めることで、目の周囲の血行が改善し、首や肩への緊張の連鎖を断ちやすくなります。
※頭痛持ちの人は発作時には温めず、冷やす方が良い場合もあります
身体を冷やさない工夫
首や肩は冷えの影響を受けやすい部位です。
夏場のエアコンの風が直接当たらないようにする、冬場はマフラーやストールで首回りを守る——
こうした小さな工夫が、慢性的な肩こりの悪化を防ぎます。
入浴時に首まで湯に浸かり、じっくり温めることも有効です。
しかし、気血不足傾向の人は長湯をしすぎないように注意しましょう。
ストレスケアと呼吸
ストレス性の肩こりには、身体のケアだけでなく心のケアも大切です。
就寝前に深呼吸をする習慣を取り入れたり、散歩や軽い運動で気分転換を図ったりすることで、無意識の筋緊張が緩みやすくなります。
呼吸は「吸うよりも吐くほうを長く」するのがポイント。
鼻から4秒吸い、口から8秒で吐く腹式呼吸を、1日に数回意識してみてください。
食養生
気血の不足が肩こりの背景にある場合、食事から気血を補うことも養生のひとつです。
東洋医学では、脾(ひ)=消化吸収の力を整えることが気血を生み出す基本と考えます。
山芋、なつめ(大棗)、鶏肉、黒ごま、ほうれん草、レバーなどが気血を補う食材の代表格です。
反対に、冷たい飲食物の摂りすぎや暴飲暴食は脾を傷め、気血の生成を妨げてしまいます。
「肩こりと食事に何の関係が?」と思われるかもしれませんが、身体を作る土台から見直すことが遠回りに見えて一番の近道になることもあります。
適度な運動と散歩
東洋医学には「久坐傷肉(きゅうざしょうにく)」という言葉があり、長時間座りっぱなしでいると筋肉(肉)を傷つけるとされています。
1日15〜20分でも構わないので、歩く習慣を取り入れてみてください。
腕を軽く振りながら歩くだけで、肩甲骨が自然と動き、肩周りの血行が改善します。
鍼灸によるアプローチ
鍼灸では、問診、脈診、舌診、腹診などの体表観察を通じて、肩こりの背景にある身体全体の状態を見極めていきます。
肝の気が滞っているのか、気血が不足しているのか、外邪が入り込んでいるのか、瘀血が停滞しているのか——
その判断によって、選ぶツボも施術の方向性もまったく異なります。
たとえば、肝気鬱結による肩こりであれば肩のツボだけでなく手足のツボを用いて気の巡りを整えることがありますし、気血両虚が背景にあれば、気血を補うことを優先する場合もあります。
一見「肩に鍼を打たない」こともありますが、根本原因にアプローチするためには必要な判断です。
また、鍼灸のアプローチは「筋肉をほぐす」ことだけが目的ではありません。
気血の巡りを整え、自律神経のバランスを回復させ、身体が本来持っている「自分で治る力(自然治癒力)」を引き出すことを目指します。
そのため、施術後に肩だけでなく
「よく眠れるようになった」
「胃腸の調子が良くなった」
「気持ちが落ち着いた」
といった変化を実感される方も少なくありません。
当院では、北辰会方式の体表観察に基づいて一人ひとりの肩こりのパターンを丁寧に弁別し、少数の鍼で的確にアプローチすることを大切にしています。
「長年揉んでもらっても良くならない」
「姿勢を気をつけているのに改善しない」という方は、肩こりの"原因"が肩以外のところにある可能性があります。
まずはお気軽にご相談ください。
まとめ
肩こりは「揉めばラクになる」という対処だけでは、根本的な解決にはなりません。
その裏にはストレス、血行不良、内臓の疲れ、冷え、自律神経の乱れなど、一人ひとり異なる原因が隠れています。
東洋医学では、肩こりという"結果"ではなく、その"原因"を見極め、身体全体のバランスを整えることで改善を目指します。
肝気鬱結、気血両虚、風寒湿邪、瘀血——
同じ肩こりでもアプローチはまったく違うのです。
慢性的な肩こりに悩んでいる方、肩こりと一緒に頭痛や不眠、めまいなどを抱えている方は、ぜひ一度ご相談ください。
「揉んでも治らない」肩こりには、きっと理由があります。
その理由を一緒に見つけ、身体が本来のバランスを取り戻せるようお手伝いいたします。
参考文献:
厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査の概況」
日本整形外科学会「肩こり」(公式サイト症状解説)
『黄帝内経』素問・霊蘭秘典論篇
鍼灸 縁庵
住所:大阪府茨木市永代町6-19 近藤ビル402
電話番号:090-3890-4915
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