東洋医学「津液(しんえき)」とは? 生成・働き・痰飲のしくみを 分かりやすく解説
東洋医学では、人体は「気」「血(けつ)」「津液(しんえき)」の3つの要素で構成されていると考えます。
前回までに「気」と「血」についてお伝えしてきましたが、今回はいよいよ最後のひとつ、「津液」がテーマです。
津液とは、ひと言でいえば血液以外の体液の総称。
関節液、組織液、涙、汗、唾液、鼻水……
これらはすべて津液の範疇に含まれます。
漢方の世界で「気・血・水(きけつすい)」という言い方を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、この「水」がまさに津液のことです(漢方医学では津液をより広い概念で「水」と表現します)。
この記事では、津液の分類・生成・代謝のしくみから、津液が滞ることで生じる「痰飲(たんいん)」という病理産物、さらに近年増加している起立性調節障害との関連まで、分かりやすく整理してお伝えします。
気・血・津液は常に変化し合っている
気・血・津液の3つは、独立して存在しているのではなく、常に互いに変化し合うことで調和を保っていると考えます1,2)。
陰陽で見ると、気は「陽」(動的・推進力)、血と津液は「陰」(静的・物質)に位置づけられます。
津液のような液体は、それ自体では循環できませんが、気の推動作用を受けることで全身を巡ることができます。
逆に、津液は腎の陽気によって温められ蒸騰(じょうとう)されることで「気」へと変化します。
液体が蒸発して蒸気になるようなイメージです。
陰から陽へ、陽から陰へ──
この絶え間ない変化が、身体の調和を支えているのです。
「津」と「液」── 2つの性質の違い
「津液」はひとまとめに呼ばれることが多いですが、厳密には「津」と「液」の2つに分けられます1,2)。
津(しん)── さらさらとした体表の水分
気や血とともに全身を循環する、比較的さらさらとした性質の液体です。
涙、唾液、汗、尿など、体表や体外に出るものが多く、皮膚や粘膜を潤す役割を果たします。
液(えき)── 粘稠で体内深くに蓄えられる水分
関節腔、頭蓋腔、内臓などに蓄えられている、やや粘り気のある液体です。
関節の潤滑、脳髄の充養、臓腑の潤いなど、体内の深い部分で生理的機能を果たしています。
津液の代謝 ─ 作る・巡らせる・排泄する
津液の代謝は、複数の臓腑が連携して行っています1,2,3)。
① 生成と吸収
飲食物が胃に入り、水穀の精微(栄養エッセンス)が抽出されます。
その後、小腸で「清(せい)」(必要な水分)と「濁(だく)」(不要な水分)に分別されます。
清は脾の臓に送られ、さらに上部に持ち上げられた後、肺の力を借りて全身へ散布されます。
② 循環と分布
津液は気の推動作用によって全身くまなく循環し、臓腑・筋肉・皮膚・関節を潤しながら栄養しています。水は陰の性質を持つため、熱を冷ます(陽を抑える)作用もあり、これによって陰陽の平衡が保たれます。
たとえば、夏の暑さで身体に熱がこもると、発汗することで体内の余分な熱を外へ逃がし、体温を調節します。これも津液の大切な働きのひとつです。
③ 排泄と貯蔵 ──「開闔(かいごう)」
腎の陽気による蒸騰気化の働きにより、余分な津液は汗や尿・便として排泄されたり、あるいは必要に応じて体内に貯蔵されたりします。この排泄と貯蔵のバランスを「開闔(かいごう)」と呼びます2,3)。
この開闘のバランスが崩れると、余分な水分が体内に停滞して、むくみ、関節の腫れ、排尿障害、発汗の異常など、さまざまな不調が引き起こされます。
津液代謝の要 ──「腎は水の臓」
東洋医学の古典『黄帝内経・素問』逆調論には「腎者水臓、主津液(腎は水の臓にして、津液を主る)」という記述があります3)。腎の臓は津液の生成から代謝・排泄まですべてに関与しており、特に腎陽の温煦による蒸騰気化の働きが最も大きいとされています。
また、津液は血の重要な成分でもあり、血脈を補充しています。これを「津血同源(しんけつどうげん)」といいます。この関係から、血の循環を主る心の臓、全身の気の働きを伸びやかにする肝の臓も、津液代謝に関与していることが分かります。
津液が滞ると何が起こる? ──「痰飲」という病理産物
津液の代謝が何らかの原因で乱れ、体内に余分な水分が停滞すると、それは「痰飲(たんいん)」という病理産物に変化します1,2)。
用語の整理
痰(たん)= 津液が熱せられて水分が飛び、凝縮されて粘稠になったもの。あるいは飲が進行して形成されるもの
飲(いん)= 停滞した津液が冷やされて余分になったもの。比較的さらさらとした稀薄な性質
痰飲が引き起こす症状
痰飲が体内のさまざまな場所に停滞することで、多様な症状が現れます。
痰飲が関与する症状は、西洋医学では原因不明と言われたり、なかなか治りにくい病気と分類されることが特に多い印象があります。
増えている起立性調節障害と津液の関係
近年、特に若年層に増加が目立つ起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)。一般社団法人 小児心身医学会によれば、中学生のおよそ1割に存在するとされ、小学生から大人まで誰もが発症する可能性のある疾患です4)。
起立性調節障害の主な症状
見た目では分かりにくい病気のため、周囲から「サボり」と誤解されてしまうことも少なくありません。
まずはご本人やご家族が正しく理解することが大切です。
東洋医学の視点で見ると、臨床上、起立性調節障害には痰飲が絡んでいるケースが多い印象を受けます。
特にコロナ禍以降、外出や運動の機会が減って身体を動かさなくなった影響もあってか、ここ数年で明らかに増えた実感があります。
参考:関連する漢方処方
起立性調節障害に対しては、漢方薬が処方されることもあります。
※漢方薬の使用は、必ず医師や薬剤師にご相談のうえ、ご自身の体質に合ったものを選んでいただくようお願いいたします。
津液の巡りを整える養生法
体内の水分代謝を良好に保つために、日々の生活で意識したいポイントをまとめます。
〜津液の巡りを整える養生のポイント〜
まとめ ─ 「水」のバランスを整えることの大切さ
津液は、身体を潤し、冷やし、栄養する──目立たないけれど欠かすことのできない存在です。
その代謝には腎を中心に脾・肺・心・肝など多くの臓腑が関わっており、バランスが崩れれば「痰飲」という病理産物が形成され、むくみ、めまい、倦怠感、起立性調節障害をはじめとする多彩な症状を引き起こします。
「水」は「気」や「血」に比べると地味な存在に思えるかもしれませんが、気・血・津液の三者が絶えず変化し合い、支え合うことで、私たちの身体の調和は保たれています。
どれかひとつでも欠けたり、滞ったりすれば、全体のバランスが崩れてしまいます。
日頃から身体を適度に動かし、冷やしすぎず、温かいものを取り入れる──。
そうした小さな積み重ねが、水の巡りを整え、不調を遠ざけてくれるはずです。
▶ あわせて読みたい
気とはなにか?|東洋医学の概念と鍼灸の役目
気・血・津液シリーズの第1回。気の生成・種類・働きについて解説しています。
→ 記事を読む
▶ あわせて読みたい
東洋医学の「血(けつ)」とは?|血の生成・働き・瘀血のしくみを分かりやすく解説
気・血・津液シリーズの第2回。血の生成ルートから瘀血の病理まで解説しています。→ 記事を読む
▶ あわせて読みたい
めまいの原因を東洋医学で読み解く|6つの体質タイプと養生法
痰濁中阻型のめまいなど、津液の代謝異常が関わるめまいのタイプも解説しています。
→ 記事を読む
参考・引用文献
※本記事は東洋医学的な観点からの情報提供を目的としたものであり、
特定の疾患の診断・治療を行うものではありません。
症状が気になる方は、医師や専門の鍼灸師にご相談ください。
鍼灸 縁庵
住所:大阪府茨木市永代町6-19 近藤ビル402
電話番号:090-3890-4915
NEW
-
2026.06.06
-
2026.06.04難聴の原因と種類|東...「最近、人の声が聞き取りにくくなってきた」「テ...
-
2026.05.30COPD(慢性閉塞性肺疾...「少し歩いただけで息が切れる」「朝起きると毎...
-
2026.05.29更年期障害と漢方|体...「更年期の不調に漢方が良いと聞いたけれど、どれ...
-
2026.05.18喘息の原因と対策|東...「夜になると咳がひどくなる」「ゼーゼーして息が...
CATEGORY
ARCHIVE
- 2026/062
- 2026/056
- 2026/045
- 2026/0311
- 2026/0215
- 2026/011
- 2025/124
- 2025/112
- 2025/091
- 2025/082
- 2025/062
- 2025/058
- 2025/047
- 2025/035
- 2025/022
- 2025/013
- 2024/122
- 2024/112
- 2024/103
- 2024/095
- 2024/085
- 2024/041
- 2024/032
- 2024/025
- 2024/0110
- 2023/1215
- 2023/115
- 2023/107
- 2023/092
- 2023/084
- 2023/074
- 2023/064
- 2023/051
- 2023/042
- 2023/021
- 2023/014
- 2022/124
- 2022/115
- 2022/101
- 2022/092
- 2022/082
- 2022/072
- 2022/061
- 2022/051
- 2022/043
- 2022/037