「生理周期が急に短くなった」
「いつもより遅れてなかなか来ない」
「出血量が極端に増えたり減ったりして不安...」
そんな"月経の乱れ"は、心や体のSOSかもしれません。
女性の生理(月経)のリズムは、心身の健康状態を映し出すバロメーターともいわれます。
しかし、仕事のストレスや生活習慣の乱れ、加齢などさまざまな要因で月経の乱れが起こることがあります。
「生理があるべきタイミングで来ない・来すぎる」ことは、日常生活やQOL(生活の質)に影響し、大きなストレスをもたらすことが考えられます。
本記事では、まず西洋医学的な視点から
「生理不順」の概念や一般的な原因・診断・治療法を解説し、つづいて東洋医学的な視点からの考え方やセルフケアについてもご紹介します。
女性疾患シリーズ 関連記事
生理(月経)のメカニズムについて
→ 生理(月経)を東洋医学と現代医学から考える
生理痛(月経痛)について
→ 月経痛(生理痛)を東洋医学で考える|原因・冷え・熱との関係
初潮と閉経について
→ 初潮と閉経のしくみ ― 西洋医学×東洋医学(天癸)で学ぶ女性の節目 ―
経血量の異常について
西洋医学的な見解:月経の乱れ(生理不順)とは?
定義と主な症状
月経周期は通常、25〜38日程度が正常範囲とされています1)。
この範囲から外れる場合は、以下のように分類されます。
頻発月経:周期が24日以内と極端に短くなる状態
稀発月経:周期が39日以上と長くなる状態
過多月経:出血量が異常に多い状態
過少月経:出血量が異常に少ない状態
これらに伴い、
「生理痛がひどくなった」
「不正性器出血を伴う」
「生理の間隔がまちまちである」といった訴えがあがりやすく、日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
また、経血の色や性状(塊の有無など)からも原因の手がかりが得られることがあります。
月経不順の主な原因
ホルモンバランスの乱れ
視床下部 ― 下垂体 ― 卵巣系(HPG軸)の機能異常により、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌バランスが崩れると、排卵や子宮内膜の調節に異常が生じ、周期が乱れます1)。
ストレス・生活習慣
過度なストレス、睡眠不足、激しい運動、偏った食事(極端なダイエットも含む)は、視床下部に影響を与え、ホルモン分泌を乱すことで生理周期の変動を招きやすくなります2)。
婦人科疾患
子宮内膜症、子宮筋腫、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、子宮内膜ポリープなどの器質的疾患が月経時の出血量や周期に影響を与えることがあります1)。
体重変動・極端な体脂肪率の低下
急激な体重減少や過度のダイエットにより卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体化ホルモン(LH)の分泌が抑制され、無月経や稀発月経につながることがあります2)。
薬物・内分泌疾患
ピル(経口避妊薬)などホルモン剤の使用中断後に一時的に周期が乱れることがあります。
また、甲状腺疾患(甲状腺機能亢進・低下)や高プロラクチン血症など内分泌異常も原因となりえます1)。
加齢による卵巣機能の低下
初潮後しばらくの間や更年期前後はホルモンバランスが安定しにくいため、生理周期をはじめとした月経異常が生じやすくなります。
症状の把握には、問診・基礎体温測定・超音波検査・ホルモン検査(LH、FSH、エストロゲン、プロゲステロン、プロラクチンなど)が一般的に行われます。
西洋医学における治療・対処法
ホルモン療法
低用量ピルは月経周期を安定させる効果があり、過多月経や月経痛の軽減にも用いられます。
更年期前後の卵巣機能低下に対しては、HRT(ホルモン補充療法)が検討されることもあります。
生活習慣の改善
鉄分やビタミンを意識したバランスの良い食事(緑黄色野菜、レバー、豆類など)や、規則正しい睡眠、適度な運動と体重管理が推奨されます。
ヨガやマインドフルネスなど、心身ともに落ち着ける時間を確保し、ストレスの発散を促すことも大切です2)。
痛み・出血量のコントロール
日常生活に支障が出るほどの痛みであれば鎮痛剤(NSAIDs)の使用が推奨されます。
また、貧血がある場合は鉄剤の補充が検討されます。
婦人科疾患の治療
子宮筋腫・子宮内膜症などに対しては薬物療法(GnRHアゴニストなど)や手術療法(子宮筋腫核出術など)が検討されます。
西洋医学では、周期の乱れをまず整えること、そしてそれに伴って発現している症状をいかに抑えるかを重視します。
必要であれば病巣を取り除き、不足しているものは補充する、という考え方です。
あまりにも月経痛が強い場合には、あえてピルやホルモン療法にて生理の周期を遅らせたり、無月経にすることもあります。
東洋医学的な視点:経乱(経行先後無定期)とは?
中医理論の考え方
東洋医学(中医学)では、月経の乱れを「経乱」あるいは「経行先後無定期(けいこうせんごむていき)」と呼びます3)。
「経行先後無定期」とは文字どおり、
月経が早く来たり(先期)、遅れて来たり(後期)と、一定の周期が定まらない状態のことを指します。
中医学では、月経は「肝」「脾」「腎」を中心とした五臓の働きと深く関わると考えます3)4)。
なかでも、「肝」は気の巡りを司り、「腎」は生殖機能の根本を維持するとされます。
これらの臓腑の機能が乱れることで気血の調節がうまくいかなくなり、月経が不規則になる、というのが東洋医学的な捉え方です。
西洋医学が検査データに基づいて原因を特定するのに対し、東洋医学では「弁証(べんしょう)」という方法で、全身の症状や体質、生活状況をもとに分類します。
以下に代表的なタイプをご紹介します。
代表的な弁証分類
1. 肝鬱気滞(かんうつきたい)
ストレスや感情の抑圧で「気」の巡りが滞るタイプ
ストレスや情緒の抑圧が続くと、肝の「疏泄(そせつ)」という気を巡らせる機能が低下し、気の流れが滞ります3)。
わかりやすく言えば、イライラやストレスで身体の巡りが悪くなっている状態です。
胸や脇腹の張り感、イライラ、ため息が多い、食欲のムラなどを伴うことがあります。月経は早まること(先期)が多く、経血は暗紫色で塊が混じることがあります。
治療方針は「疏肝理気(そかんりき)」、つまり肝の機能を整えて気の巡りをよくすること。
代表的な漢方処方には逍遥散(しょうようさん)や加味逍遥散があります4)。
2. 気血両虚(きけつりょうきょ)
「気」と「血」の両方が不足しているタイプ
東洋医学でいう「気」は身体を動かすエネルギー、「血」は全身に栄養を届ける物質です。このどちらも不足している状態が気血両虚です3)。
疲れやすい、顔色が白っぽい、動悸、息切れ、めまいなどを伴います。月経は遅れ気味(後期)で、経血量が少なく色も薄い傾向があります。
治療方針は「補気養血(ほきようけつ)」、つまり気と血を補うこと。
代表的な処方には当帰補血湯(とうきほけつとう)や帰脾湯(きひとう)があります4)。
3. 血熱妄行(けつねつもうこう)
体内の余分な「熱」が血を暴走させるタイプ
辛いもの・脂っこいものの食べ過ぎや、慢性的なストレスなどにより体内に余分な熱がこもると、血が熱を帯びて制御を失い、出血しやすくなります3)。
イメージとしては、鍋が沸騰して中身が吹きこぼれるような状態です。
イライラしやすい、口が渇く、便秘になりやすいなどの症状を伴います。
月経は早まることがあり、出血量が多く、経血は鮮やかな赤色でサラサラした性状が特徴です。
治療方針は「清熱涼血(せいねつりょうけつ)」、つまり血の余分な熱を冷ますこと。
代表的な処方には清営湯(せいえいとう)や黄連解毒湯(おうれんげどくとう)があります4)。
4. 腎虚(じんきょ)
生殖機能の土台である「腎」が弱っているタイプ
東洋医学の「腎」は西洋医学の腎臓とは異なり、成長・発育・生殖・老化を司る根本的な臓腑と位置づけられています3)。
加齢や過労、慢性疾患などで腎の力が衰えると、月経を支える力そのものが弱まります。
腰や膝のだるさ・冷え、耳鳴り、腰痛、夜間の頻尿などを伴います。
月経は遅れることが多く、経血量が少なく色も薄い傾向があります。
治療方針は「補腎固摂(ほじんこせつ)」、つまり腎を補い、経血が漏れ出ないようにしっかり保持すること。
代表的な処方には六味地黄丸(ろくみじおうがん)や知柏地黄丸(ちばくじおうがん)があります4)。
5. 血瘀(けつお)
血の流れが滞り、ドロドロの塊ができているタイプ
冷え、ストレス、長期の血行不良などにより、血が停滞して「瘀血(おけつ)」が形成された状態です3)。
水道管に汚れが詰まって流れが悪くなっているような状態をイメージするとわかりやすいかもしれません。
月経痛が強く、経血は暗紫色で血の塊が混じります。
痛みは刺すような固定痛であることが多いです。
治療方針は「活血化瘀(かっけつかお)」、つまり血の流れを改善し、滞った瘀血を取り除くこと。
代表的な処方には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)があります4)。
ここでは代表的な弁証分類を5つご紹介しましたが、実際にはさらに細かい分類があります。
また、複数のタイプが重なっている場合も少なくありません。
だからこそ、専門家による丁寧な弁証(見極め)が大切になるのです。
セルフケア(養生)のポイント
弁証のタイプによって細やかなセルフケアは変わりますが、以下の3つの心がけはどのタイプにも共通して良い結果を招きやすく、気血のバランスを整える助けになります。
1. 気の巡りを整える(ストレスケア)
散歩、ヨガ、深呼吸などを習慣化し、気の滞り(気滞)を解消しましょう。
趣味の時間や自然に触れる機会を意識的につくることも有効です。
2. 気血を補う食事
腎や血を補うもの:黒ゴマ、クルミ、黒豆、アサリなど
気を補うもの:米、芋類、うずらの卵など
肝の疏泄を助けるもの:柑橘類や梅干しなどの酸味を程よく摂ることもおすすめです5)。
3. 下腹部を冷やさない工夫と良質な睡眠
腹巻きや生姜湯で下腹部を温めましょう。
また、就寝前の電子機器使用を控え、就寝時間をなるべく一定に保つことで、身体のリズムが整いやすくなります。
まとめ
西洋医学では、生理不順を「頻発月経」「稀発月経」「過多月経」「過少月経」などに分類し、ホルモン検査や超音波検査で原因を特定したうえで、ホルモン療法・生活習慣改善・婦人科疾患への対処が行われます。
東洋医学では、「経乱(経行先後無定期)」と呼び、肝鬱気滞・気血両虚・血熱妄行・腎虚・血瘀といった弁証分類に基づいて鍼灸や漢方などを用い、身体全体のバランスを整えることを目指します。
セルフケアとしては、適度な運動やストレスケア、食養生、睡眠の確保、身体を温める工夫など、日常生活レベルでできる対策が重要です。
これは西洋医学・東洋医学ともに共通していえることでしょう。
月経の乱れは、放置すると生活の質を低下させるだけでなく、長期的には更年期障害や骨粗鬆症など、将来的な健康リスクにもつながりかねません1)。
気になる症状があれば、まずは婦人科や鍼灸院など専門家に相談し、自分の体質に合ったアプローチを行うことをおすすめします。
鍼灸 縁庵にも、女性疾患・婦人科疾患で不調を訴える方がたくさん来られております。
その症状を抑え込むだけではなく、「なぜ発生しているのか?」という点に着目して、一緒に根本的な原因を見つけ、改善していきませんか?
生理のリズムは女性にとって大切なサインです。
"乱れ"に気づいたら早めに対策をとり、より快適な毎日を過ごしましょう。
参考文献
1) 日本産科婦人科学会 編『産科婦人科用語集・用語解説集(改訂第4版)』日本産科婦人科学会, 2018年.
2) 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会 編『女性医学ガイドブック ― 思春期・性成熟期編(2023年度版)』金原出版, 2023年.
3) 張玉珍 主編『中医婦科学(第2版)』中国中医薬出版社, 2007年.
4) 神戸中医学研究会 編著『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版, 2004年.
5) 梁哲雄 編著『東洋医学概論(改訂第2版)』南江堂, 2015年.