生理(月経)を東洋医学と現代医学から考える|仕組み・セルフケア
世間的には「生理」と呼ばれますが、
医学的には「月経」が正式な名称です。
月経(生理)は、女性の健康状態を映し出す大切なバロメーターでもあります。
毎月やってくる生理痛や経血量の変化、月経周期の乱れなどに悩まれる方は少なくありませんが、まずは「そもそも月経は何のために起こるのか」を理解することが、セルフケアや適切な受診を考えるうえでの第一歩になります。
「生理=面倒くさいもの、不必要なもの」
と感じる方もおられるかもしれません。
しかし月経は女性の身体にとってとても大切な現象です。
本記事が改めて考え直すきっかけになれば幸いです。
そして、女性のみならず男性にもこの記事が届くことを願っています。
大切な人の身体を理解することは、その人を守ることにも繋がるからです。
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月経とは、子宮内膜が周期的に剥がれ落ち、血液や粘液とともに体外へ排出される生理現象です1)。 卵巣から分泌されるホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)が正常に働くことで、およそ25〜38日の周期で規則的に起こります1)。 月経は妊娠の準備として子宮内膜を整え、受精が成立しなかった場合にその内膜をリセットする ―― いわば次の妊娠に向けた「準備と更新」のサイクルです。 経血の正体 経血は血液だけではありません。 月経を正常にコントロールしているのは、 1. 脳の視床下部からGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)が分泌される 2. GnRHを受けて下垂体前葉からFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)が分泌される 3. FSHの作用で卵巣内の卵胞が成長し、エストロゲン(卵胞ホルモン)が生成される 4. LHの急上昇(LHサージ)によって排卵が誘発される この一連の流れが正常に機能することで、規則的な月経周期が維持されています。 月経周期は大きく4つのフェーズに分けられます1)2)。 1. 月経期(目安:Day 1〜5頃) 子宮内膜が剥がれ落ち、経血として排出される時期です。 2. 卵胞期(目安:Day 1〜14頃) 下垂体から分泌されたFSHの作用で卵胞が成熟し、エストロゲンが増加します。 3. 排卵期(目安:Day 14前後) LHサージが起こり、成熟した卵胞から卵子が飛び出します(排卵)。 4. 黄体期(目安:Day 15〜28頃) 排卵後の卵胞が「黄体」に変わり、プロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌します。 月経時に子宮内膜から放出されるプロスタグランジンという物質が、子宮を収縮させることで下腹部痛や腰痛、頭痛、吐き気などを引き起こします2)。 これが一般的な生理痛のメカニズムですが、子宮内膜症や子宮筋腫などの器質的疾患が背景にある場合は、より強い痛みを伴うことがあるため注意が必要です1)。 ストレス、過度なダイエット、激しい運動、甲状腺機能の異常などでHPG軸のバランスが崩れると、無月経・稀発月経・過多月経・過少月経といった月経異常が起こることがあります2)。 また、思春期はホルモン調整がまだ未熟なために月経不順が起こりやすく、更年期に近づくと卵巣機能の低下により無排卵月経や更年期症状を伴うことがあります1)。 正しい月経の仕組みを理解することで、ご自身の月経が「生理的(正常)」なのか「病理的(異常)」なのかを判断する手がかりになります。 東洋医学では、月経を単に子宮内膜が剥がれるという物理現象としてだけではなく、全身の「気血(きけつ)」や「臓腑(ぞうふ)」の状態と密接に関わる現象と捉えます3)。 さらに「天癸(てんき)」という概念が月経の本質を理解する鍵とされていますが、天癸と初潮・閉経の関係については別記事「初潮と閉経のしくみ」で詳しくご紹介していますので、本記事では気血と臓腑を中心にお話しします。 東洋医学で月経を理解するためには、まず「気血」という概念を知る必要があります3)。 気(き) 身体を動かすエネルギーであり、さまざまな生体機能の調整役です。 血(けつ) 身体のさまざまな臓器や組織を潤し、栄養を届ける物質です。 月経は「血」が胞宮(ほうきゅう=子宮に相当する概念)に十分に満たされ、ある時期にスムーズに排出されるべきもの。 しかし、気の滞り(気滞)、血の不足(血虚)、血の滞り(瘀血)などがあると、周期の乱れ、痛み、量の異常が生じると考えます3)。 東洋医学では五臓(肝・心・脾・肺・腎)すべてが身体に関わりますが… 肝(かん)― 気を巡らせる司令塔 肝には「疏泄(そせつ)」という、気をスムーズに巡らせる機能があります。 わかりやすく言えば:ストレスで気分が塞ぐと「肝の疏泄」が乱れ、月経にも影響が出やすくなる、ということです。 脾(ひ)― 血をつくる源 脾は消化吸収をつかさどり、食べ物から「血」をつくる役割も担っています。 わかりやすく言えば:胃腸が弱って栄養をうまく吸収できないと、血をつくる材料が足りなくなる、というイメージです。 腎(じん)― 生殖の根本 腎は「先天の精」を貯蔵し、成長・発育・生殖に関与します。 わかりやすく言えば:腎は生命力の「電池」のようなもの。この電池の充電状態が、月経を含む生殖機能全体に影響します。 豆知識:「三陰交(さんいんこう)」のツボ 婦人科疾患でよく用いられるツボに「三陰交」があります。これは足の内くるぶしの上あたりに位置するツボで、足厥陰肝経・足太陰脾経・足少陰腎経という3つの陰の経絡が交わる場所であることから「三陰交」と名づけられています4)。 ただし、このツボも「効くから使う」のではなく、その人の体質や証(しょう)に合っていることが大切です。 月経に異常がある場合、東洋医学では全身の症状や体質をもとに「弁証(べんしょう)」という方法で分類し、それぞれに合ったアプローチを行います3)。 代表的なタイプを4つご紹介します。 1. 気滞血瘀(きたいけつお)型 ストレスで気と血の両方が滞るタイプ イライラやストレスで気の巡りが悪くなり、それに引きずられて血の流れも滞る状態です。 月経前のイライラ、脇腹から胸あたりの張り感(胸脇苦満)、痛みなどが見られます。 代表処方:桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、血府逐瘀湯(けっぷちくおとう)など5) 2. 血虚(けっきょ)型 血をつくる力が不足しているタイプ 脾(消化吸収)が弱い方に多く見られます。月経量が少ない、顔色が白っぽい、めまい、疲労感などを伴います。 代表処方:当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、四物湯(しもつとう)など5) 3. 瘀血(おけつ)型 血が滞って塊ができているタイプ 血がスムーズに巡らず停滞した状態です。経血に血の塊が混じる、刺すような固定的な痛み、腹部の硬さや圧痛が特徴です。 代表処方:桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、桂枝茯苓丸など5) 4. 腎虚(じんきょ)型 生殖の根本である腎が弱っているタイプ 天癸の源である腎精が不足している状態です。初潮が遅い、閉経が早い、腰痛、耳鳴り、疲労感などを伴います。 代表処方:六味地黄丸(ろくみじおうがん)、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)など5) これらは単体で現れる場合もあれば、複数のタイプが重なっている場合もあります。 元々の体質や他の症状と合わせて総合的に判断する必要があるため、専門家による弁証が大切です。 痛み対策(生理痛) 日常生活に支障が出るほどの痛みがある場合は、プロスタグランジンの産生を抑えるNSAIDs(市販の鎮痛薬)の使用が推奨されます。 お腹や腰を温めることで血行を促進し、子宮の過剰な収縮を和らげることも有効です。 軽いストレッチやヨガなどで心身の緊張を緩めることもよいでしょう2)。 経血量や周期が気になる場合 経血量が多すぎる・期間が長すぎる場合は、子宮内膜症や子宮筋腫、子宮ポリープなどの疾患が隠れていることもあるため、婦人科受診を検討しましょう。 経血が極端に少ない・周期が大幅に乱れる場合は、無排卵周期や甲状腺異常などの可能性もあります1)。 月経前症候群(PMS)対策 ビタミンB6、マグネシウム、カルシウムを意識して摂ること、軽い有酸素運動でストレスを軽減すること、十分な睡眠時間を確保してホルモンバランスを整えることが推奨されています2)。 冷えのケア 足湯や温灸、薄手の腹巻きなどで下腹部や腰を温め、気血の流れを促しましょう。 飲み物は温かいものを中心に、冷たい飲食はできるだけ避けることが養生の基本です3)。 食養生(しょくようじょう) 血を補う温性食品:黒ゴマ、ナツメ、生姜、鶏肉、鮭など 気を巡らせる食品:山椒、陳皮(みかんの皮)、香りの強い野菜などでストレス緩和に 瘀血を予防する食品:玉ねぎ、お酢、ココアなど血流をよくする食品もおすすめです6) 漢方の活用について 弁証に合った漢方は効果を発揮しますが、合っていない場合は逆効果になる可能性もあります。 「漢方=安心・副作用がない」というわけではありません。 使用を検討する場合は、舌や脈をしっかり確認し、体質から病態を把握してくれる漢方クリニックや治療院にかかることをおすすめします。 生活習慣の調整 ストレスが溜まると「肝気鬱結(かんきうっけつ)」が起こり、気の滞りが生じやすくなります。 適度な運動や趣味の時間、呼吸法で心身の緊張をほぐしましょう。 また、規則正しい睡眠を心がけ、夜更かしを避けることで、しっかりと血や精を養うことができます3)。 月経の基本 子宮内膜が周期的に剥がれ落ち、血液や粘液として体外へ排出される生理現象。 西洋医学的視点 視床下部 ― 下垂体 ― 卵巣軸(HPG軸)が月経周期をコントロール。 東洋医学的視点 月経は「天癸」が胞宮に到り、気血が十分であればスムーズに起こるとされる。 セルフケア 西洋医学的には鎮痛薬の適切な使用、温めるケア、適度な運動、栄養バランスの改善。 月経というものは、女性の生命と深く関わっており、一人ひとり症状やその重さが異なります。 「正常」と「異常」を知ることで、もし何かおかしいと感じた場合に早期の対応ができ、それが隠れた疾患の早期発見にもつながるかもしれません。 月経について知ることは、「面倒な現象」として片付けるのではなく、自分の身体と向き合う第一歩です。 ぜひ、心と体の声に耳を傾けてみてください。 鍼灸 縁庵では、東洋医学的な検査(舌診・脈診など)をしっかり行い、お一人おひとりの体質や病態に合わせた施術と養生指導を行っております。 月経に関するお悩みも、お気軽にご相談くださいませ。
1) 日本産科婦人科学会 編『産科婦人科用語集・用語解説集(改訂第4版)』日本産科婦人科学会, 2018年.月経とは? ― 基本概念
剥がれた子宮内膜の細胞や粘液が混ざったものです。
通常は数日間で終わりますが、期間や量には個人差があります1)。西洋医学から見た月経の仕組み
視床下部・下垂体・卵巣の連携(HPG軸)
視床下部 ― 下垂体 ― 卵巣という3つの器官の連携(HPG軸)です1)。月経周期の4つのフェーズ
同時に、卵巣内では次の卵胞が新たに成長をはじめます。
エストロゲンの働きにより子宮内膜が厚く育っていきます(増殖期)。
エストロゲンがピークに達したあと、プロゲステロンの分泌が増えはじめます。
子宮内膜をさらに厚く維持し、受精卵が着床しやすい環境を整えます(分泌期)。
受精が成立しなければ黄体は退行し、プロゲステロン・エストロゲンが急激に低下して子宮内膜の剥離が起こり、再び月経期へと戻ります。生理痛(月経痛)はなぜ起こるのか
ホルモンバランスの乱れと月経異常
もちろん元々の体質による個人差はありますが、「いつもと違う」と感じたら早めに専門家に相談することが大切です。
東洋医学から見た月経の考え方
そもそも「気血」とは?
目には見えませんが、身体を温める、外敵から守る、血を巡らせるなど多くの働きを担っています。
気によって運ばれることで全身を巡ります。
西洋医学の「血液」と重なる部分もありますが、もう少し広い概念として捉えられています。月経に深く関わる3つの臓腑
月経にとくに深く関与するのは「肝」「脾」「腎」の3つです3)4)。
この機能が正常であれば、ストレスなどに左右されずに安定した月経を迎えることができます3)。
脾が弱ると血虚(血の不足)になりやすく、月経量の減少や貧血症状を伴うことがあります3)。
天癸の源でもあり、初潮や閉経のタイミングに大きく関わるとされています3)。代表的な弁証分類
日常生活でできるセルフケア
西洋医学的な観点から
東洋医学的な観点から
まとめ
エストロゲンとプロゲステロンが正常に働くことで規則的に起こる。
ストレスや過度なダイエット、運動過多などでホルモンバランスが乱れると月経異常を招く。
プロスタグランジンの過剰分泌が生理痛の主な原因。
「肝・脾・腎」のバランスを重視し、気滞血瘀・血虚・瘀血・腎虚などの弁証に基づいてアプローチする。
東洋医学的には冷え対策、温性の食養生、体質に合った漢方の活用、ストレスケアで気血の巡りを整えること。
参考文献
2) 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会 編『女性医学ガイドブック ― 思春期・性成熟期編(2023年度版)』金原出版, 2023年.
3) 張玉珍 主編『中医婦科学(第2版)』中国中医薬出版社, 2007年.
4) 王居易 著, 金原正幸 訳『経絡と経穴 ― 臨床実践のために』東洋学術出版社, 2000年.
5) 神戸中医学研究会 編著『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版, 2004年.
6) 梁哲雄 編著『東洋医学概論(改訂第2版)』南江堂, 2015年.
鍼灸 縁庵
住所:大阪府茨木市永代町6-19 近藤ビル402
電話番号:090-3890-4915
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