「ナプキンの交換が追いつかないほど出血が多い...」
「生理が本当に来ているのかわからないほど少ない...」
こうした経血量の異常 ――
「過多月経」と「過少月経」は、日常生活の質(QOL)を大きく左右するサインです。
本記事では、西洋医学的な視点から定義・原因・治療法を、東洋医学的な視点から弁証分類とアプローチを解説し、日常でできるセルフケアまでお伝えします。
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西洋医学的な見解:過多月経と過少月経とは?
過多月経(かたげっけい)
定義の目安
経血量が1周期あたり80mL以上、あるいはナプキンやタンポンの交換が1日8回以上必要になる場合を「過多月経」と呼びます1)。
レバー状の血塊が頻繁に混ざる、出血が7日以上止まりにくいといった状態も過多月経のサインです。
主な症状
過度の出血により外出や仕事に支障が出る、鉄欠乏性貧血によるめまい・動悸・倦怠感、ナプキン交換の頻度増加や就寝中の漏れなどによる心理的ストレス
―― これらが日常生活を圧迫します1)。
私生活に支障をきたすほど困っているということが前提にあり、心理的ストレスがさらに他の不調を引き起こすきっかけにもなり得ます。
また、出血が多量になるために貧血のリスクが高まる点にも注意が必要です。
過少月経(かしょうげっけい)
定義の目安
経血量が1周期あたり30mL未満、あるいはナプキン交換が1日1〜2回程度と少量の場合を「過少月経」と呼びます1)。
月経期間が1〜2日で終わる、あるいはほとんど「おりもの程度」で済んでしまう場合も含まれます。
主な症状
出血量が少なすぎて「本当に生理が来ているのかわからない」という不安感。
無月経へ移行するリスクがあり、将来的に排卵やホルモンバランスの異常を招く可能性もあります1)。
間違っても「出血が減ってラッキー」とは思わないでください。
本来あるべきものが減少しているのは、身体からのSOSサインです。
不妊につながる可能性もあるため、原因を見つけて対処することが大切です。
過多月経・過少月経の主な原因
過多月経の原因
子宮内の器質的疾患
子宮筋腫(良性腫瘍が子宮内膜付近にある場合、血管が増えて経血量が増加)、子宮内膜症(子宮以外の場所に増殖した内膜組織による出血増加)、子宮内膜ポリープ(ポリープ部分からの出血)、子宮腺筋症(内膜組織が筋層内に侵入)などが挙げられます1)2)。
ホルモンバランスの乱れ
プロゲステロン(黄体ホルモン)に対してエストロゲン(卵胞ホルモン)が相対的に多くなると、子宮内膜が過度に厚くなり、剥がれる際の出血量が増えます。
排卵障害(無排卵月経)により、プロゲステロンが十分に分泌されないケースもあります2)。
凝固機能の異常・薬剤の影響
血液凝固障害(抗凝固薬の服用など)により出血が止まりにくくなるケースや、一部のホルモン剤の使用中断後に一時的に過多月経が起こることもあります1)。
過少月経の原因
ホルモン分泌量の低下
卵巣機能低下(早発閉経など)によるエストロゲン分泌の減少で子宮内膜が十分に育たない場合や、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で排卵自体が不規則になり薄い内膜しか形成されない場合があります1)2)。
体重の急激な変化・過度なダイエット
BMIが極端に低いと視床下部の機能が低下し、FSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)の分泌が抑えられて排卵が起こりにくくなります2)。
ストレス・過度の運動
精神的ストレスやアスリートのような過度なトレーニングにより、視床下部 ― 下垂体 ― 卵巣系(HPG軸)が抑制され、排卵が不十分になり経血量が減少します2)。
子宮の器質的要因・薬剤の影響
子宮腔内の癒着(アッシャーマン症候群)や子宮頸管狭窄が影響する場合もあります。
また、低用量ピルの長期使用で出血量が抑えられることもあります1)。
西洋医学における治療法・対処
過多月経の治療
薬物療法
まずは投薬治療が第一選択となることが多いです。
NSAIDs(鎮痛薬)はプロスタグランジン産生を抑制し出血量を軽減します。
低用量ピル(経口避妊薬)はホルモンバランスを安定させて子宮内膜の増殖を抑え、黄体ホルモン製剤は内膜の肥厚をコントロールします。トラネキサム酸(抗線溶剤)は出血時の血液溶解を防いで止血を助けます1)2)。
子宮内装置(IUS)
レボノルゲストレル放出性子宮内システム(ミレーナなど)は、子宮内膜を薄く保つことで出血量を大幅に軽減し、貧血の改善にもつながります1)。
外科的治療
子宮内膜焼灼術(内膜を焼灼して厚くならないようにする)、子宮動脈塞栓術(筋腫への血流を減らす)、子宮摘出術(他の方法で改善が見られない重度の場合)などが検討されます1)。
外科的治療は病巣を除去できる一方で、術後の身体への負担やその後の経過についても把握しておく必要があります。
過少月経の治療
ホルモン療法
エストロゲンとプロゲステロンの組み合わせでホルモン不足を補い、子宮内膜を適度に増殖させます。
無排卵やPCOSが背景にある場合はクロミフェン療法で排卵を誘発し、正常な黄体ホルモン分泌を促すこともあります2)。
生活習慣の改善
体重を適正範囲(BMI 18.5〜25程度)に戻すこと、過度なダイエットの中止、ストレスマネジメント(リラクゼーション法やカウンセリングの活用)が推奨されます2)。
長期的に見て、生活習慣の改善と良い状態の維持は非常に大切です。
原因疾患への対処
PCOSの場合はインスリン抵抗性の改善と体重管理、甲状腺機能異常や高プロラクチン血症にはそれぞれの専門的な治療が必要となります1)。
東洋医学的な見解:過多月経と過少月経の弁証分類
東洋医学(中医学)では、経血の「量や質」「色・性状」「月経前後の身体症状」を総合的に弁証し、体内の「気・血・陰・陽」のバランスが崩れた結果として経血量の異常を捉えます3)。
ここでは過多月経・過少月経それぞれの代表的な弁証パターンをご紹介します。
過多月経の主な弁証パターン
1. 血熱妄行(けつねつもうこう)
体内の余分な熱が血を暴走させるタイプ
辛いものや脂っこいものの食べ過ぎ、慢性的なストレスなどで体内に余分な熱がこもると、血が熱を帯びて出血しやすくなります3)。
沸騰した鍋から中身が吹きこぼれるようなイメージです。
経血は鮮やかな赤〜鮮紅色でサラサラと流れやすく、口の渇き、のぼせ、イライラ、便秘などを伴います。
治療方針は「清熱涼血(せいねつりょうけつ)」、血の余分な熱を冷まして安定させること。
代表的な処方には清営湯(せいえいとう)があります4)。
2. 気虚(ききょ)
「気」が弱って血を保持できなくなるタイプ
長期間の過労や慢性疾患、出血の繰り返しなどにより「気」のエネルギーが弱ると、血をしっかり留めておく力が不足し、過度に出血してしまいます3)。
ダムの堤防が弱って水が漏れ出すようなイメージです。
出血量は多いものの、経血の色は淡い傾向があります。
身体のだるさ、息切れ、少し動くだけで汗をかきやすいなどの症状を伴います。
治療方針は「補気摂血(ほきせっけつ)」、不足した気を補い、血をしっかり収めること。
代表的な処方には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)があります4)。
3. 血瘀(けつお)
血が滞り、巡りが悪くなって出血が増すタイプ
冷えやストレス、長期の血行不良により血が停滞し、瘀血(おけつ)が形成されると、血管壁に負担がかかって出血が増えることがあります3)。
経血は暗紫色で黒っぽい血塊が混じり、下腹部に刺すような痛みを伴います。
治療方針は「活血化瘀(かっけつかお)」、瘀血を解消して血行を改善すること。
代表的な処方には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)があります4)。
過少月経の主な弁証パターン
1. 血虚(けっきょ)
「血」が不足して子宮内膜が十分に育たないタイプ
慢性疾患や貧血、栄養不足などにより血が足りず、子宮内膜の形成が不十分になります3)。
畑の水が足りなくて作物が育ちにくい、というイメージです。
経血量が少なく色は淡いピンク〜淡紅色で、月経期間も短くなりがちです。
めまい、顔色不良、倦怠感、動悸などを伴います。
治療方針は「養血(ようけつ)」、血をしっかり補って内膜形成をサポートすること。
代表的な処方には当帰補血湯(とうきほけつとう)、四物湯(しもつとう)があります4)。
2. 腎陽不足(じんようぶそく)
身体を温める「腎の陽気」が弱っているタイプ
腎の陽気(身体を温め、生殖機能を支える力)が低下すると、子宮が冷えて十分な血流が届かず、経血量が減少します3)。
暖房が切れた部屋で水道管が凍りかけているような状態です。
経血量が少なく色は暗紫色寄り、下腹部や下肢の冷え、腰痛、夜間の頻尿などを伴います。
治療方針は「温腎補陽(おんじんほよう)」、腎を温めて陽気を補い、子宮の血流を回復させること。
代表的な処方には八味地黄丸(はちみじおうがん)があります4)。
3. 気血両虚(きけつりょうきょ)
「気」と「血」の両方が不足しているタイプ
生活習慣の乱れや過度のストレス・過労により気と血の両方が足りなくなると、子宮へ十分に血を送れず経血量が減少します3)。
経血が少ないだけでなく月経が遅れることもあり、疲れやすい、動悸、息切れ、食欲不振、顔色のくすみなどを伴います。
治療方針は「補気養血(ほきようけつ)」、気と血を同時に補って子宮内膜の正常な形成を促すこと。
代表的な処方には帰脾湯(きひとう)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)があります4)。
ここでご紹介したのは代表的なパターンです。
実際には複数のタイプが重なっている場合も少なくないため、専門家による丁寧な弁証(見極め)が大切です。
日常生活でのセルフケア・養生ポイント
過多月経・過少月経の症状を和らげ、再発を予防するためには、生活習慣の見直しとセルフケアが大切です。
「不調を招かない体づくり」を日ごろから心がけましょう。
1. バランスのよい食事
過多月経の方:鉄分をしっかり摂る
レバー、赤身肉、ほうれん草、小松菜、乾燥プルーンなど鉄分豊富な食材を意識的に摂りましょう。
ビタミンCと一緒に摂ると吸収が高まるため、レモン果汁を添えるのもおすすめです2)。
過少月経の方:血を養う食材を取り入れる
黒ゴマ、クルミ、クコの実、黒豆、レバーなど血を補う食材を積極的に。
温かいスープや雑炊で胃腸を温めると栄養の吸収もよくなります5)。
共通して大切なこと
冷たい飲食物を控え、温かいものを中心にすること。
タンパク質・脂質・炭水化物をバランスよく摂ること。
過度なダイエットは月経異常を招きやすいため避けましょう。
2. 適度な運動と休息
ウォーキングやストレッチ、ヨガなど軽めの有酸素運動は、過多月経では下腹部の血行改善に、過少月経では全身の気血生成を促すのに役立ちます。
ただし、体重が極端に落ちている方や過少月経傾向のある方は激しい運動を避け、軽い散歩程度にとどめましょう2)。
質のよい睡眠の確保も大切です。
夜更かしや睡眠不足はホルモンバランスを崩す要因になります。
就寝前はスマホやPC画面を控え、できるだけ決まった時間に眠るよう心がけましょう。
3. ストレスマネジメント
深呼吸、瞑想、アロマテラピー、入浴など、ご自身に合ったリラックス法を見つけましょう。
過多月経ではイライラや不安感が強まることがあるため、定期的にリラックスタイムを確保することが大切です。
楽しい時間を意識的につくることでストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を抑え、ホルモンバランスを整えやすくなります。
重度のストレスを感じている場合は、専門家のサポートを受けることも有効です。
4. 身体を温める工夫
腹巻きや使い捨てカイロ、湯たんぽなどで下腹部や腰を温めましょう。
とくに過少月経で腎陽不足が疑われる場合、冷え対策は養生の要です3)。
生理時・生理前後は冷たい飲み物を避け、白湯や生姜湯、黒豆茶などを意識して摂りましょう。
足湯や半身浴(38〜40℃程度のぬるめのお湯で15〜20分ほど)も血行促進に効果的です。
ただし、発汗しすぎると気虚や血虚を助長する可能性があります。長湯には気をつけましょう。
まとめ
過多月経
経血量80mL以上、ナプキン交換8回以上、レバー状の塊が頻出 ―― といったサインが見られます。
子宮筋腫やホルモンバランスの乱れ、凝固異常などが背景にあり、西洋医学では薬物療法やIUS、外科的治療を行い、東洋医学では血熱・気虚・血瘀などの弁証に応じたアプローチを行います。
過少月経
経血量30mL未満、ナプキン交換1〜2回、月経が1〜2日で終わる
―― といったサインで、卵巣機能低下や過度のダイエット・ストレス、子宮の器質的要因が考えられます。
西洋医学ではホルモン療法や生活習慣改善を行い、東洋医学では血虚・腎陽不足・気血両虚などの弁証に基づいて根本改善を図ります。
セルフケアの基本
バランスのよい食事(鉄分や血を補う食材)、適度な運動と十分な休息、質のよい睡眠、ストレスマネジメント、そして身体を温めること。
月経量が多すぎる・少なすぎると感じたら放置せず、まずは婦人科や鍼灸院に相談することをおすすめします。
生理の量は、女性の健康状態を映し出す重要なサインです。早めに適切な対策を講じることで、日常生活の負担を減らし、長期的な健康リスクを回避できます。
本記事が過多月経・過少月経でお悩みの方にとって、安心して治療や養生に取り組むきっかけとなれば幸いです。
鍼灸 縁庵では、体質把握のためのカウンセリングに力を入れております。
東洋医学的な検査(舌診・脈診など)をしっかり行い、お一人おひとりの証に合わせた施術と養生指導をご提案いたします。
女性特有の不調のお悩みも、お気軽にご相談くださいませ。
参考文献
1) 日本産科婦人科学会 編『産科婦人科用語集・用語解説集(改訂第4版)』日本産科婦人科学会, 2018年.
2) 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会 編『女性医学ガイドブック ― 思春期・性成熟期編(2023年度版)』金原出版, 2023年.
3) 張玉珍 主編『中医婦科学(第2版)』中国中医薬出版社, 2007年.
4) 神戸中医学研究会 編著『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版, 2004年.
5) 梁哲雄 編著『東洋医学概論(改訂第2版)』南江堂, 2015年.